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昼食

「なあ。一緒に飯、食わね?」  カーリアによる学校説明が終わると、それぞれが教室を出て行くなり自分が買ってきたものや持参した弁当を広げるなりする中、声をかけてきたのは前の席の人。  濃いブラウンの髪をセミロングにし、自然に流していて、左をピンで留めている。  その人が僕の机に肘を置き、立ち上がろうとしていた僕を上目遣いに見上げてきた。 「僕、もう帰るから」  今日の日程はこれで終わりだ。  授業は明日から。ここで昼を食べてから帰るか、帰ってから昼を食べるか。  僕は特に一緒に食べるような人もいないので、そこら辺で食べてから帰ろうと思っていた。  なので断りの言葉を述べ、そのまま帰ろうと歩き出す。  と、そんな僕を阻むように、手が伸びてきた。 「そんなこと言わずにさ~。ほら、座って座って! おーい、こっちだ、ゴジ!」  無理やり僕の肩に手を置き椅子に座らせた彼は、荷物を持って教室から入ってきた随分ガタイの良い男に手を振り、机をくっつけ、彼の既に帰っていた隣の席から椅子を拝借し僕と彼の机の間に置いた。  そこに、ゴジと呼ばれた男が座る。 「悪い、ホームルーム長引いたみたいでな、遅れちまった」 「いいさ、こっちだってそんなに待ってないしな」  どうやら、二人はこの学園に入る前からの仲のようだ。  これなら僕、逆にいない方がいいんじゃないかな?  再度、席を立つことを申し出ようとしたとき……僕の机に、影が差した。 「なあ。俺も一緒に食べていいか?」  そう申し出てきたのは、なんとリース。  あんなにひどい態度を取ってきた僕と一緒に食べたいだなんて……気性を疑ってしまう。  ……まあそれでも、僕は近くにいれるなら、嬉しいけど。  僕と同様驚いていた二人は、ゴジが何か言おうとしたのを前の席の彼が止め、僕に目を向けてきた。  きっと、朝のやり取りを見ていたのだろう。  帝が嫌いだと言い切った僕に、確認を取っている。  帝と仲良くなりたい人なんて、たくさんいるだろう。  彼と仲良くなることは強大な後ろ盾を手に入れ、将来の幅が広がることを意味する。  もちろんそんなことを考えない人もいるし、そもそもここは学ぶ場であり、帝も普通の生徒として扱うべきという意見もある。  だが、それでも気にしてしまうのが人間というものであり、将来の架け橋を作ろうとするのもまた、人としての真理だろう。  けれど彼は、自分の将来よりも僕の事を気にしてくれた。  どうやら、彼はチャラそうな見た目とは裏腹に、人のことをきちんと考える性格らしい。  大人な対応をしている横で独りよがりになったら、自分が子供みたいに見えてしまう。  それだけは避けなければ、と彼にこくんと頷いた。  それを受け、リースが机を持ってきて、ゴジも椅子のあった机を運ぶ。 「そういや、自己紹介がまだだったな」  二人が席に着いたのを見て、前の彼が切り出した。 「俺は、さっき言ったけど……」 「聞いてない」 「同じく」 「そうかよ」  少し拗ねたように口を尖らせ、それでも彼は僕たち二人を見て口を開いた。 「俺は、ミーク・ユリア。属性は土、ランクはお前と同じCだ。よろしくな」  きっと繰り返しになるであろう自己紹介をし、ニコッと笑いかけた。  そして続けて、隣のゴジがミークの視線を受け、腕を組みふんぞり返る。 「俺は、ゴジェーラ・アクル。属性は雷、ランクはDだ。ちなみにAクラス! 気軽にゴジって呼んでくれて構わねえから!」  ピースをする彼に頷いて、僕も口を開いた。 「僕は、アルディル・アマルド。属性は風、ランクはC。よろしく」 「おー、よろしくな!」  ゴジは豪快に笑いながら、胸を上下させる。  そして続けてリースが口を開こうとするのを、ミークが遮った。 「俺は……」 「ああ、お前はいいよ。有名だからな。それよりも、早く食おうぜ」  と言っても、僕は元々帰り道に適当に買って食べる予定だったのだ。  もちろん手元に昼食なんてあるはずがなく、仕方なく校内にある購買にて買いに行こうと席を立つ。 「ん? どうした、アルディル」 「僕、昼食持ってきてないから。買ってくるよ」 「そうか、そりゃ俺と同じだな」 「え?」 「ゴジ」 「はいよ」  そう言って渡されたのは、ここの学校の紋章が入った、つまりは購買にて販売されているはずのもの。  それをいくつも取り出し、四つの机が並べられた中央には、様々な低級魔物の肉とちょっとの野菜が挟まっているだけサンドウィッチや、サンドウィッチよりは厚めのパンにウィルサというA級魔物がふんだんに挟まっているちょい高めのものまで、カバンの中から取り出しては並べ始めた。 「よし、こんなもんか」  その様子をちょっと引き気味に見ていたのだが、やっと最後にたどり着けたらしい。  満足げにふふんと鼻を鳴らしたゴジは、どうよとまたふんぞり返る。

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