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風帝の苦悩

――ボクは、何のために生きているのだろう。  最近頻繁に考えるようになったその事は、段々とシオンの心を蝕んでいっていた。 「おーい、シオン!」  午前の授業を終え、帰路につこうと学園の門へと歩を進めていた時。  不意にかけられた声は雷帝・インファスであり、声をかけると同時に隣に並んだ。   「今日も、探すのか?」  主語がない言葉に、コクリと頷く。 「そうか……」  彼の瞳に映ったのは諦めにも似た感情、きっと彼は呆れている。  何をそんなに焦っているのかと、睡眠を削ってまで探す必要はあるのかと。 ――彼は、信じているのだ。  零帝様が、無事に帰ってくるのを。  一年前、零帝様の失踪に戸惑う中でも、彼は冷静だった。  零帝様なら大丈夫、何かに巻き込まれていたのだとしても自ら解決するだろう、そう信じている。  それに、一年の捜索にも何の手がかりも見つからないことから、零帝様は自ら逃げているのではないかという説が有力な為、それが零帝様の意思ならば、と熱心に探していない。  シオンとリース、それに他の帝も必死に探す中、零帝様の強さを疑わず、零帝様に解決できないことは自分たちには解決できないという精神を貫き、シオンらを不思議そうに眺めている。 (でも……ね)  シオンは眉を顰めた。  あの日の出来事が脳裏をよぎる。  あの出来事は皆、ボクのせいだ。  あれから、ボクは囚われている。  後悔が心の隅に住み着き、零帝様を探さないと落ち着かない。 「じゃあ、俺はいつも通りギルドの依頼を少しでも減らしてくるか」 「……うん」  今、零帝様の失踪以外にも持ち上がっている問題。  それは、魔物の増加である。  シオン、リース、闇帝・リキが零帝様の捜索を。  インファス、カーリア、土帝・ドュール、光帝・ステラが魔物討伐を。  二手に帝は別れ、それぞれの役割を果たしている。  そして今日もその役割を果たすために、インファスはギルドへ、シオンは大陸の端にある森へと転移しようとしたところで、後ろから元気そうな声が聞こえてきた。 「風帝様!」  声の主を即座に予測し、げんなりした顔が出ないように顔に力を入れ、振り返る。 「……オルガ」  そこには、ゴールドブラウンの髪を風に靡かせた男が、シオンのことをじっと見つめていた。 「あの、今日って時間、空いてますか?」 「……なんで?」 「夕飯、一緒にどうかな、って思って……」  はにかみ人差し指で頰をかく彼に、一瞬ため息をつきそうになるのをすんでのところで止め、じっと見上げた。 「ダメ……ですか?」  目に見えてしょんぼりする彼に、今度は抑えきれずため息が漏れ、前を向く。 「……いいよ」  途端、嬉しそうに声を上げる彼。  きっとその顔は柔らかな笑みを浮かべ、幸せを噛みしめるように唇を結んでいるのだろう。  呑気に、こちらの事を考えずにシオンに接してくる彼。  断れば良い誘いをまたシオンは了承し、罪悪感に頭が痛み出す。 「じゃ、また後で!」  元気よく手を振り、彼はシオンの脇をすり抜け、ギルドの方へ歩いて行った。  彼の姿が見えなくなると、自然と体の硬直が解け安堵に息が漏れる。 「知り合い?」  インファスが怪訝そうに尋ねた。  それに対し、シオンは頷く。 「にしては……もしかして、苦手?」 「…………」  沈黙を肯定と取ったのか、インファスは「あーゆー無邪気そうなの、確かにお前苦手そうだもんなー」と自分のことは棚に上げ彼が去った道を眺めた。  彼の後ろ姿と、零帝様が重なる。  共通点は“あの日”であり、囚われたままのシオンの心を、彼が度々揺らすのだ。

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