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聞かせてください
「落ち着きましたか?」
「……はい」
優しくシオンの髪を撫でる零帝の手は温かくて、いつまでも浸っていたい思いを堪え、シオンは彼から離れた。
「零帝様……なんですよね?」
「ええ、そうです」
シオンを離した零帝は、部屋に取り付けられた簡易キッチンに向かいそう言った。
魔物を颯爽と刈り、その下にあるのは無表情と思われていた零帝。
けれど仲間である帝や彼の受け持つ隊の隊員など、公の場以外の時には、彼は優しかった。
そんな零帝を思わせる目の前の少年にまた目尻が熱くなるが、それよりもシオンには聞かなければならないことがあった。
「あの……零帝様。聞かせてください、あの男とはどうなったんですか?」
意を決して、シオンは尋ねた。
零帝の手が止まる。
ソファーに座る彼の向かいの席を促され座り、零帝が茶を用意した。
「そうですね……今も、会っていますよ」
「それは、あなたが……あの男のものになった、という事ですか?」
「全部ではありません、体だけです」
淡々と零帝は述べるが、それはどういう事なのだと一瞬思考が停止した。
そしてその言葉の意味する所を理解した時、シオンは身を乗り出していた。
「寝ているのですか、あの男と!?」
ちらりとこちらを見た零帝は、お茶に口をつけ、そして何でもないように「ええ」と言う。
「でも、あなたは……リースの事が、好きなんじゃ……」
「だから、体だけです。そしてもう、彼に会うこともないでしょう」
「それは、どういう……」
「こんな汚れた体では、彼に会わせる顔がありませんから」
悲しそうに微笑む零帝、よく見ると鎖骨の下に虫刺されのような跡があり、部屋に来て取ったローブに隠されていたであろうキスマークである事がわかった。
それが零帝の話に真実味を持たせ、零帝があの男に体を許している様をありありと浮かばせる。
「と言っても、零帝としては会わない、と言う意味ですけどね」
「え?」
「今、リースと同じクラスなんですよ? 私」
僅かに上気した顔をほころばせ、零帝はまた一口、茶に口をつけた。
「リースと同じ……って、え? ……まさか、高等部一年……?」
「はい」
ソファーから立ち上がり、零帝がシオンの隣に移る。
「幻滅、しましたか?」
「い、いいえ!」
首を左右に振り、必死に否定する。
「ちょっと驚いただけで……ボクがあなたに幻滅するだなんてこと、ある訳がありません」
「そうですか」
自分より年下だったとしても、何ら変わる事はない。
性格も、今まで積み重ねてきた実績も、何もかも。
だからそんな事は微塵も思っていないことを伝えたくて、真っ直ぐ零帝の瞳を見つめる。
そして零帝の顔色を伺った。
「あ、あの……どうして抵抗していないのか、伺っても?」
「しようと思っても、できないのです。私にはもう力がない、抵抗したら、状況を悪化させるだけ。なら大人しく、従うしかありません」
「力が……? それは……」
そこでシオンは、あの男の言葉を思い出した。
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