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再び、巡り会えますように

『お前の魔力から始まり、記憶まで、これは喰らい尽くすだろう』  途端、シオンの顔が青ざめる。 「すみません、零帝様……あの時、ボクが――」 「風帝」 「はい」 「あれは、貴方のせいではありません。隙を作り出した、私の弱さです。だから貴方が気に止めることは、何らありませんよ」 「ですが!」 「さぁ、そろそろ時間も遅くなってきました。明日も学校があるでしょう? そろそろ帰らなくては」  零帝がシオンの帰宅を促す。  だが、シオンの耳にはもう、零帝の声が聞こえていない。 「零帝様がここにいるのに、ギルドに何も知らせていないのは……リースに知られるのが、怖いからですか?」  心が、凍る。  しでかしてしまった罪が、重く、重く、シオンの肩にのしかかる。 「リースは……気にしないと、思いますよ」  震える手を押さえつけ、シオンは言った。  リースの、あの想いは本物だ。  例え零帝が誰かと寝ていたとしても、零帝からリースに向かう想いがあるのなら……為すすべもない先に、体を重ねているのなら……リースならば丸ごと、その事情すら愛するだろう。  すれ違う、リースと零帝。  零帝はリースに知られたくなくて身を隠し、そんな零帝をリースが探す。  見つからなくて、一年かけても必死さは衰えず、でも睡眠を削っているせいで常に目の下にはクマがあり、このままでは体を壊してしまうのではないかと帝内で心配されているリース。  リースへの想いと行なっている行為の不誠実さで、心が潰されそうになっている零帝。  このままでは、互いに潰れてしまう。  だからリースに会って欲しくて、信じて欲しくて、シオンは必死に訴えた。 「リースは、あなたのことを今も必死に探しています。睡眠を削り、体を壊しそうになりながらも……でも、あなたに会えれば……零帝様の、ご無事な姿をお見せすれば……リースも安心するでしょう。  どうか零帝様、リースの事を信用してください。零帝として、リースに会って下さい」  自分のした事は消えない、でも少しでもこの状況を改善できるように。  シオンは零帝の心に響くように、言葉を紡いだ。  真っ直ぐと零帝の瞳を見つめる。  それから、どれくらい経ったのだろうか。  シオンにとっての長い時間の経過の後、零帝はため息をついた。 「リースは……私のことを、許さないと思います。理由があってたとしても、私は許されない事をしているんです。そしてそれは、今もなお続いている」 「いいえ、彼は許すに決まってます。あなたがリースの事を本当に好きならば……きちんと伝えれば、分かってくれるはずです」 「そう、でしょうか」  顎に手をやり、零帝は考え込む。  その頭の中にある考えが、リースに会うという方向に向かって欲しくて、心の中でシオンは祈った。 「少し……考えて、みますね」  やがて、零帝は呟く。  否定でもなく、肯定でもない言葉を。 「はい」  でも否定ではなかったのが嬉しくて、シオンは笑って言った。  それを見て、零帝も笑う。 「そうだ」  零帝は手を叩き、シオンの方に体を向けた。 「私、アルディルっていうんです、名前。もし見かけた時は零帝ではなく、アルディルとお呼びください」 「わ、分かりました、アルディル様」 「呼び捨てで結構ですよ」 「そんな、恐れ多い……」 「ぜひアルディル、と。それから敬語もなしで」 「じゃあ零帝様も、敬語はなしで……」 「貴方がちゃんと呼んでくれたらなくします」 「分かった、アルディル」 「うん、シオン」  そうして二人は微笑み合い、未来の安寧を祈った。

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