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冷たい目
「で、どうなんだ、リース。零帝探しは順調か?」
ギルドマスター室に入ると、カーリアがリースに尋ねた。
ギルドの前で解かれた手をちらりと見て、イルクもリースに目を向ける。
「…………」
「その様子じゃ、全然見つけられてないみたいだな」
沈黙で答えを返したリースに、カーリアはため息をついた。
呆れたような目線を向けられ、リースは言い訳じみた言葉を放つ。
「最初、零帝様だって思った人はいたんだ。でも……彼は、零帝様ではない」
「そいつの名前は?」
「……アルディル・アマルド」
「……マジか」
その名を聞いた途端、カーリアが目を見開いた。
「俺も、書類を見て彼が零帝様だと思ってたんだけどな……。あの魔力の質は、零帝様以外ありえない。リース、お前がアルディルを零帝様ではないと判断した理由は何だ?」
「彼は、俺に面と向かって『帝が嫌い』だと言ったんだ。そんな事、零帝様が言うと思うか?」
「確かに、帝のイメージ向上を率先してやってたのは零帝様だったが……どう思う、イルク?」
「そうですね……零帝だということを疑われないようにという演技かもしれません。その生徒をしっかりと見て、その上で判断しても遅くはありません。決定的に違うか、そうであるか納得できるものを用意した上で、また報告してください」
「わかりました」
差し出されたお茶に口をつけながら、リースは頷いた。
イルクに言われずとも、リースはそうするつもりであったが、ふと脳裏にアルディルのあの冷たい視線が浮かんだ。
シオンには偉そうに零帝のためにアルディルの帝のイメージを変えたいなどと宣言したが、正直リースにはあのアルディルの視線が嫌だった。
あんな目で零帝に見つめられた日には、引きこもってしまうかもしれないほどだ。
だから、アルディルが零帝ではないことを密かにリースは願っていた。
けれどそれと同時に浮かぶのはあの、昼食時の微笑み。
それと、「可愛い」という言葉に、熱のこもった視線。
本当に自身のことを嫌っているのか疑いたくなるほどまでの、内側から溢れる熱い感情は、誰に向かっていたのだろうか。
相反する二つの感情、そのどちらが本物か、もしくはどちらも本物なのか。
思考の渦に囚われる前に一旦頭の隅に追いやり、リースはイルクの方を見やる。
「で、何かあったのですか?」
イルクは私用で出かけることは滅多にない。
なので何かあったのではと思い、リースは問いかけた。
「後で帝の皆に伝えようと思っていたのですが……貴方には、先に言っておきますね」
そう前置きして、イルクは切り出す。
「最近、魔物の活動が活発になってきています。群れを作るはずのない魔物が群れをなしていたり、攻撃性のない魔物に襲われるという報告があったり……。依頼の数も増え、炎帝、雷帝、土帝、光帝に加え、週末は貴方達にも声をかけるかもしれません。
今日は街を守る結界が破損しているか調べるために出てきたのですが……何箇所か脆くなっていたので、張り直してきました。破損箇所を見つけ次第、修正するようお願いいたします」
ギルドマスターとして顔を引き締め、イルクは淡々と述べた。
魔物の活性化……確かに、最近前よりも魔物が多いなと思っていたが、まさか問題になるほどまでとは。
頷き、どういうことかと考える。
零帝がいなくなってからの変化、これまでそんなことはなかったため、何らかの繋がりを見出さずにはいられない。
(何が……起こっているのだろうか)
不安が雲のようにむくむくと広がり、零帝への心配とともにこれからの事への心配も同時に胸に満ちる。
(早く、会いたい)
無事を祈り、恋情と心配と不安が、複雑に絡み合う。
そしてそれらの、向かう先はただ一つ。
零帝に会う、それなのだとリースは零帝の姿を思い浮かべた。
「早く、見つかるといいですね」
慰めるように呟いたイルクの言葉に、静かにリースは頷いた。
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