27 / 28

突然の邂逅

「お、久しぶりじゃねぇか、アル」  そこで奥から顔を出したのは、ラリおじさん。  ノトの父親で、この店を経営している店長である。 「久しぶり、ラリおじさん。いつもの、お願いしていい?」 「おう、いいぜ」  手に持っていた荷物を降ろし、彼の手が僕の肩に触れる。  僕の中に温かなものが入ってきて、胸の辺りで何かを探るようにたむろし、やがて暫くすると周囲に霧散して消えていく。 「うーん。良くは、ねぇな。だが、予想の範囲内だ」 「そう」 「ああ。だが、確実に悪くなっていっている。気をつけろ、今のお前は、確実に“弱い”」 「わかってるよ」  そんなの、僕が一番……。 「あの時から、覚悟はできていたから」  握った拳を背後に隠し、僕はラリおじさんに微笑んだ。  それを見て何かを堪えるような表情をしたあと、「そうか」と呟く。 「とりあえず、これ。いつものだが、これはあくまで一時しのぎだ。お前の魔力はゆっくりと、奪われていく。今までのように魔力が使えない、そのことに注意しながら暮らせよ?」 「もうこうなってから、一年経つんだよ? 魔力は極力使わない、慣れたものだよ」 「っていってもお前……魔法学園に通うんだろ? 話、聞こえてたぞ。魔法使う機会が増えるんじゃ、今まで以上に注意しねぇと」 「そっか……そうだね。初級魔法以外はなるべく使わないようにするよ」 「ああ、そうしてくれ」  戸棚から取り出された袋を受け取り、直後大きな手が僕の頭を包み込んだ。 「たまには頼れよ、俺たちを。抱え込んで潰れるなんてことだけはやめてくれ。抗えよ、最後まで」 「ラリおじさん……」  優しく微笑んだ後、ラリおじさんは乱暴に僕の頭をかき回した。 「好きなやつの話でもいい。何でもいいから、時たまお前の話を聞かせてくれ」 「……え?」 「いるんだろ、好きなやつ」  ニヤリと口角を上げ、ラリおじさんはからかうように僕と視線を合わせた。 「ラリおじさんには、そんな話したこと……」 「さっきの話、聞こえてたって言っただろ?」  それを聞いた途端、僕の顔に熱が集まる。 「お、可愛い反応するじゃねぇか。そんなに好きなのか、そいつのこと」 「もう、やめてよ……」  腕で顔を隠し、赤が少しでも隠れるようにそっぽを向く。  何だか、気恥ずかしい。  ノトとだったら普通に話せるのに、ラリおじさんだと妙に恥ずかしかった。  けれどふと視線を向けた先に、話題に上がっていた人が店のドアをくぐり抜けたのが見えて、開けた口がそのままになり、間抜けな顔を晒すのも気にせず、じっと視線が彼に釘付けになる。 「おい」  聴き馴染んだ声が、店に響き渡った。 「このミルシェの花は、もうこれ以上ないのか?」 (……リース!?)  驚きが顔に広がり、店の方を向いたまま僕は固まる。  それを怪訝そうに見ながら、ラリおじさんは店の方を覗き込んだ。  そして僕と同じように一瞬固まった後、僕の方にまた視線を移し、納得したように頷いた。 「水帝様が、お前の好きな人か」  引き始めていた赤がまた押し寄せるが、僕の目は店の方から離せなかった。  学校で会える、そんなことはわかっている。  でも休日でも、一秒でも多くの時間を彼の姿を瞳に映していたい。  だからそっと、瞳を逸らさないまま、僕は奥に続く通路から彼の姿を覗き込んだ。  そこには、水色の髪を茶色に染めた、リースの姿が。  ノトに中位の解毒機能があるミルシェの花の位置を尋ね、それを取りにノトがこちらにやってくる。

ともだちにシェアしよう!