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3:番契約*

「あっ、……はぁぁっん、あ、あぁ……っ」  青年の勃ちあがった淫茎をすっぽりと口に含み、舌で亀頭先端を柔く押し潰すと、青年は甘い喘ぎを漏らし、喉に先端から溢れた蜜がトロリと通っていく。  甘露を思わせる体液をコクリと嚥下する。甘やかで楚々とした匂いが鼻を抜け、玲司(れいじ)の頭は酩酊したように、更に舌でねっとりと亀頭を舐め回しながらも、唇で屹立を扱いていった。 「……ぁっ、ゃ……、ん、あんっ……、ぁ、はぁ……」  自分の唾液と青年の蜜が混じり合い、屹立を唇と舌が滑る度に淫靡な音色が部屋に広がる。それは玲司の耳すらも犯し、ひたすら吐精へと促すように一心不乱に抽送していった。 「んぅ……、あ、あ、ぁ、あっ!」  口の中の淫茎がビクビクと暴れたかと思えば、玲司の喉の奥に勢いよく体液が叩き込まれる。それは数回に渡って噴き上がり、何の抵抗を持つことなく玲司はコクリと飲み込んだ。オメガであっても同性の精を飲んだのに、全く嫌悪しなかったのは初めてだ。  初めて口淫をした玲司の感想は、「青臭い」や「苦い」ではなく。 「カモミールのような精ですね」  喉奥から沸き立つ青年の白濁をそう称し、うっとりと青年を見下ろしながら、口の端に付着した白蜜を名残惜しむかのように、自らの舌を這わせた。青く、それでいて甘い。 「ここ(・・)も、同じように甘いでしょうか」  玲司は、青年の吐瀉してくたりと萎えた茎の下。陰嚢に隠るようにして会陰があり、更にその下で慎ましやかに存在する蕾へと視線を寄せる。  射精したからか、窄まっている蕾は中心の色が濃く、ヒクヒクと震えている。そこが、オメガの秘所であると本能が教えてくれる。ここに玲司の雄茎を突き入れ、項を噛みながら達せば、青年は番となり、子を孕む。  思わずゴクリと喉が鳴り、たった今青年の蜜を飲んだというのに、口が渇くのを感じた。  今すぐにでも自身の雄を青年の秘めやかな場所へと突き刺し、その柔肉を蹂躙し、思うざまに腰を振りたくって精を注ぎたい。  しかし、これまでの行為で、青年が誰の手にも染まってない事に気づいていた。  誰にも手折られた事のない無垢な存在。  これから自分が汚してしまう征服欲が全身を覆い、本能が早くしろ、と急かしてくる。  おもむろに青年の体を反転させ、うつぶせ状態にした玲司は、まろみのある尻を割り、その奥に息づく蕾へと指を挿入した。 「う、あぁ……んっ」  つぷり、と絞られた襞をかいくぐり、第二関節まで挿し込む。入口は異物の存在に気付いて追い出そうと懸命に襞を絞ってくるものの、奥の蜜道は温かく、オメガの男性のみが持つという愛蜜のぬめりが指に絡みつく。  軽く指を蠢かせると、クチクチと蜜の捏ねる音が指に伝わる。発情しているからなのか、蕾と指の隙間から甘い香りを放つ雫が溢れ、まだ中に入っていない部分を濡らしていく。  玲司はその蜜の力を借り、そっと挿れた指を奥へと押し込み内部を探索する。 「あ、あぅ、は、ゃぁっ」  あえかな喘ぎを漏らす青年の吐息は色を帯び、イヤと無意識に漏らしていはいるものの、玲司の指を喰む蜜道は離さまいとヌメった襞が絡み付いてくる。体温より少し高い熱と粘膜が心地良い。  すぐにでも猛ったモノを蕾を裂いて突き入れたい欲に駆られたが、玲司の僅かな冷静な部分が二本目の指を割り込ませる事で抑える。慎ましい蕾が歪に広げられ、玲司は嗜虐心を駆り立てる。例えるならば獲物を鋭い爪で弄ぶ心境によく似ている。  二本の指をクパと拡げると、蜜で濡れた粘膜が赤く色づいているのもいい。  緊張に固くなっている入口を優しく解しながら、玲司は何かを探るように指をゆるゆると蠢かす。  人間誰もが持つ排泄器官は、オメガの男性に取ってはそうであり、違う機能を持つ。  女性には女性器──膣や子宮というのが存在するが、オメガの男性には一般的な男性器──陰茎や睾丸以外に、アルファやベータの男性にはない器官がある。  オメガの男性がヒート状態になると、直腸の奥、S字結腸の近くに、女性でいう子宮のようなものが発生する。  そこに番となったアルファが吐精すると、妊娠するのである。  そういった特殊器官のせいか、オメガの直腸には腸液ではなく女性の愛液と同様の物が滲出し、アルファの性器を受け入れるようになっているのだ。  なので、比較的オメガは腸での性交でも快感を得る事があるも、慣れない──所謂処女のオメガ男性は、男性器での刺激で快感を受けるらしく、玲司は先程から会陰部分の辺りを探るように指を動かしていたのだが。 「っ、あ、あぁ!」  突然、青年が丘に揚がった魚のように全身を跳ねる。  その様子を見て、玲司は「ここですね」と艶然と微笑み、指先に当たるツルリと曲線を描くしこりを、刺激によって再び屹立した青年の淫茎を掌で包み、同時に刺激を与える。 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、っ」  可愛らしく囀る青年の淫茎はとぷとぷと蜜を零し、玲司の手をぐっしょりと濡らす。掌に脈動する血管がはっきりと主張し、蕾の奥は玲司の指を確かめるようにぎゅっと食い締める。蜜道の指はいつしか三本に増え、最初はキツかった抽送も、蜜の助けもあって滑らかに動かす事ができた。  蕾から指が出し入れされる度に、襞がめくれて肉色の果実が蜜を纏って常夜灯に光り、淫らな蜜が淫猥な音色を奏で、玲司は淫蕩に滲んだ目を細める。無意識に揺れる青年のくねる腰つきを眺め、一気に蜜道へと沈めた指を引き抜く。  艶かしい声を漏らし、青年は亀頭の先端から薄くなった白濁を吐き、灰色のシーツの染みが更に色濃く広がっていった。 「挿れますよ」  ひくひくと物欲しげに蜜の涙を流す蕾へと、玲司はスラックスの中心を開き、念のためコンドームを装着し、ずっと期待に涎を垂らしていた剛刀をヒタリと当て、隘路を掻き分けながらゆるりと青年の中へと入っていく。避妊に頭が傾く理性が僅かでもあった事に、自分でも驚いた。  指よりも太い逸物が粘膜を伸ばしながら入る苦痛があるのだろう。青年は、眉間に深い皺を寄せ、くぐもった声は苦しげに呻いている。 「大丈夫、これは気持ち良い事ですから」  玲司は一気に埋めないよう気をつけながら、青年の官能を引きずり出すようにして腰を撫でつつ、白い背中に幾つもの赤い花弁を散らしていった。  一番太い部分が通り、竿がズルリと入っていったおかげか、それとも玲司の声かけが功を奏したのか不明だが、青年の声は苦しげなものの中に甘さが滲んでいる。 「んっ……あ、ぁ、……あんっ……っ」  それは青年の中が玲司の剛直を柔く包みながらも、その形を憶えるようにぎゅっと吸い付いてくる事からも理解できた。  傷つけないよう慎重に押し進んでいたが、コツリと先端が奥へとぶつかる。全部入るには少し余ってしまったものの、無理は禁物だと諦める事にした。  しばし馴染むまでジッと耐えながら、それでも青年の背中や腰や胸を愛撫する手は止まらない。  ゆるりと腰を動かし、隘路を往復する。カリの部分が青年の性感部分に引っかかると、彼は甘さを溶かした声を断続的に零し、焦れたように腰を揺らめかせる。  玲司は上半身を起こし、青年の細い腰を両手で挟むように掴むと、一気に最奥へと楔を突き立てた。 「あ、あぁっ!」  急激な強い刺激に青年は意識を失いつつも、法悦を迸らせながら全身をわななかせる。また達したのか、シーツの染みが広がった。 「……は、あなたの中は、キツイですねっ」  そう呟きを落とし、玲司の刀身は青年の肉鞘を突き込む。それは次第に速さが加速していき、青年の肌と玲司の肌が軽快にぶつかり合う音が部屋に響く。  青年の蜜壺からは蜜が溢れ、玲司の楔をてらてらと濡らす。それが自分が出させている征服欲に、玲司は自分の唇をねっとりと舐めた。  表情は余裕ぶって見せているが、正直青年の中が気持ちよすぎて、すぐにでも吐精しそうだ。オメガとの性交の経験はあるものの、これほどまでに相性が良いと思える人とは出会ったことがない。脳内が快楽でドロドロに溶けそうになる。  普通ならば快楽の赴くままに吐き出してたのだろう。しかし、まだ一言も会話らしい会話もしていない青年を、半ば無理やり抱いているにも拘らず、すぐさま達するのが勿体無いとさえ思っていたのだ。  できうる事なら、ずっと、もっと、彼と交わっていたい。ゴム越しではなく、生身で白濁をぶちまけ、青年を孕ませたい。  これが玲司の本音なのか、アルファの本能なのか分からなくなっていた。  それでも体は青年を求め、ガツガツと蜜道を掘削し、楔は襞を執拗に擦りつけた。 「ああ……、イきそうですよ……。あなたの意思を無視して、申し訳ないと思っています。ですが、僕はあなたを番にしたい。嫌ってもいい。勝手に番にした事を怒ってもいい。ですが、僕を……拒絶しないで……」  玲司はそっと剥き出しになり、汗に濡れた項へと唇を寄せ、|掉尾《ちょうび》の勇を奮う。 「僕の番……あぁっ!」 「ぅ、あぁぁぁぁぁっぁぁっ!!」  膜越しに白濁を迸らせ、玲司は青年の項へと思い切り歯を突き立てる。ブツリ、と白い肌に歯が食い込み、口の中に鉄の味がいっぱいに広がる。オメガの項からアルファの唾液が入り込み混じり合ってオメガの体内を巡る。そうして番となったオメガは項を噛んだアルファ以外のフェロモンには反応しなくなる。  血までも甘いのか、と感動しながらも、性差によるセックスにおける長い吐精で亀頭が白濁に溺れる。それなのに、射精が収まる様子がない。  アルファとオメガの交合は、確実に妊娠させる為に通常よりも吐瀉の時間が長かった、と血の味に酔いしれながら、玲司はふと詮無きことを思い出していた。  長い長い射精を終え、玲司は項から口を離し、青年の中から自身を引き抜く。薄い皮膜の先端は大量の精で膨らみ、その量の多さに吐き出した当の玲司が驚いた。  避妊はしたし、項を噛んだ事で、青年のヒートは落ち着きつつあるものの、緊急抑制剤を投与した方がいいと判断した玲司は、自分の処理を終えると、青年を抱き抱え浴室へと連れて行く。項の傷に気をつけながら髪と体を洗い、再び寝室へと舞い戻る。  項を簡単に治療し、青年を寝かせる前に汚れたシーツやシャツ等を洗濯しつつ、スマホを手に取ると義兄へと連絡を取る事にした。 「総一朗(そういちろう)兄さん、今、お時間大丈夫ですか?」 『玲司? 珍しいな、お前から電話をしてくるなんて』  揶揄しているつもりはないだろう総一朗の言葉に、玲司は苦笑を浮かべる。  寒川家の長男、総一朗は玲司の三つ上で、現在は「K・Fコーポレーション」の代表取締役として勤務している。  ちなみに、「K・F」は「Kakter(寒い) Fluss()」と、寒川をドイツ語に換えただけの単調な名づけは、今は亡き実父によるものだ。   『それで、どうしたんだ?』  ぼんやりとしていると、総一朗からの声で我に返り、ああ、と用件を告げる。 「運命の番かもしれない人物を診てもらいたいから、医師を手配して欲しいんです」

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