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ファミーユ(5)

 食事を終えた後、リビングへと移動しお茶を飲む。  隆也には一つ気になることがあった。部屋をかしてくれてはいるが、亮汰は唯香と一緒に暮らすことになる。  どこに暮らすのかはわからないが、いつまで自分は亮汰の所に居てよいのだろうか。 「亮汰。唯香ちゃんといつ一緒に住むの?」 「実はさ、新築を買ったんだけど、決めたのが最近でな。入居まで一カ月まちなんだ」  だから隆也を泊めてくれたのだろう。 「じゃぁ、それまで一緒に住まないのか?」 「あぁ。向こうの親御さんが、その日まで唯香と一緒にいたいって」  だから焦らなくて大丈夫だといわれるが、隆也がいるかぎり唯香が遠慮しかねない。  やはり早いうちに住まいも決めなければならないだろう。亮汰の世話をやけなくなるのは寂しいけれど。 「そうなんだ。でも明日、不動屋さんへ行ってくるよ」  と名刺を見せる。 「朱堂さんの所か」 「亮汰も知り合い?」 「あぁ。同じ空手道場に通っている。カッコいいおじさまって感じ」  まさか亮汰が空手を習っているとは思わなかった。血を見るのが怖い、殴り合いなどしたくない、そんな子供だったのに。  しかも亮汰の表情からして、朱堂とはかなり親しそうだ。 「そうなんだ。で、亮汰はどうして通うようになったの?」 「デスクワークだからさ、運動不足とストレス解消に」  確かに、儚さはなくなり立派な男になっていた。そっと腹筋へと触れると硬かった。 「すごいな、ガチガチ」 「割れてるぞ、俺の腹」  と服を捲って見せてくれた。 「いい身体してるな」  綺麗な筋肉がついている。再びそこへ触れると、くすぐったいと身をよじり服を元に戻した。 「昔は喧嘩とか、怖いと言っていたのにな」 「今なら隆也さんにも勝てそうな気がする」 「余裕で勝てるよ」  今なら簡単に押さえ込まれてしまうだろう。 「亮汰に殴られないように気をつけようっと」 「はは、大丈夫。素人には手を出さないから」  と背中を強く二度ほど叩かれた。 「うっ」  本当に力が強くなったものだ。 「隆也さん、焦って部屋を探さなくていいから。それにしばらく一緒に住みたい」  いいでしょう? そう甘えるように顔を覗きこまれてドキッと胸が高鳴った。  昔から隆也のツボをつくのがうまい。可愛い奴め、そう思いながら亮汰の頭を撫でる。 「俺も亮汰と一緒にいたいから、お世話になるよ」  すると、つり目がすこし垂れて目尻が真っ赤にそまっている。  亮汰の表情に、胸の鼓動が落ち着かない。隆也は気持ちを落ち着かせるように深く息を吐いた。 「そうだ。桜ちゃんから連絡があって、俺の実家に隆也さん連れて行けっていわれたんだけど」  可愛い亮汰にほんわかとしていたのに、一気に現実に引き戻された。 「あ……、亮汰にも話したんだ」 「実家には、俺の方から連絡しておくからさ」 「うん、よろしく」  これで行くことは決まってしまった。亮汰と一緒だから聞きたくない話しも聞くことになるだろう。  飛び跳ねていた胸が、今度はしくしくとし痛みだした。

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