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第51話

 キスをしながら、蓮華(レンゲ)を布団の上へと座らせた。  その彼に体重を掛け、いつものように仰向けの体勢の蓮華に奉仕をしようと下腹部の着衣に手を伸ばした蓮水(ハスミ)だったが、唐突にぐるりと視界が回転した。  え、と思ったときには蓮水の背中には布団の感触があって。  蓮華が蓮水に()し掛かっていた。 「れ、蓮華……?」 「おれがする~! おれもハスミに触りたい!」  黒く純真な瞳でキラキラと見られて、蓮水は咄嗟に飯岡の方を向いた。 「おまえ、また……」 「私はなにも言ってませんよ」  飯岡がまたなにか蓮華に入れ知恵でもしたのかと疑えば、素っ気ない口調で否定される。  蓮華が不器用な手つきで蓮水の服を脱がしにかかった。  蓮水の貧相な体に触れて楽しいとは思えなかったが、その前に蓮華の興奮を高めてやれば挿入には差し支えないだろうと考え、蓮水も自分の上に居る男へと手を伸ばし、前を寛げた。  蓮水が蓮華の衣類のボタンをすべて外しても、蓮華はまだもたもたと蓮水の服に手こずっている。  蓮水は彼が脱がせやすいように、背を浮かせたり腕を動かしたりと協力した。  蓮華はどこまで手順を理解してるのだろうか、と蓮水はふと思う。  蓮水との経験で、後孔に性器を挿入することだけをセックスと理解しているのなら、すぐに挿れようとしてくるかもしれない。  その前に、後ろをほぐしておかないと……。    蓮水は飯岡が枕元にセットしてくれた香油の容れ物を手に取り、フタを開けた。  その蓮水の手に、蓮華の大きなてのひらが被さってくる。  あっという間に陶器を彼に取り上げられた。   蓮華が容れ物の中へと指を潜らせる。  とろり、とした液体を絡みつかせて、蓮華がぬるぬるになった手を蓮水の足の間に伸ばしてきた。  ずぷり……と二本まとめて突き立てられ、蓮水の背がしなった。  乾いた孔を、遠慮なくぬぷぬぷと掻き回される。  痛みが走った。  けれど真剣な表情で手を動かしている蓮華の姿に、痛いなんてことは言えずに。  蓮水は必死に蕾を開きながら、浅い息を吐いた。 「んっ、……蓮華、いいよ、上手……」  腰を(よじ)りながら蓮華の指の位置を調整し、そう囁いた蓮水に、冷ややかな溜め息が降ってきた。  驚いて視線を上げると、いつの間にかすぐ脇にまでにじり寄ってきていた飯岡が、呆れた様子を隠しもせずに蓮水を睥睨し、 「あなたはバカですか」  と吐き捨てて、蓮水のひたいをペシっと弾いた。 「蓮華さん、一回指を抜きなさい」  叱る口調で言われた蓮華が、唇を尖らせながらも飯岡の言うことをきいて蓮水の中から指を引き抜いた。  飯岡が蓮水の頭側へ陣取った、かと思うと上体を起こされ、蓮水は飯岡にもたれかかる姿勢にされた。 「うわっ、ちょ、なにっ……」 「いいからじっとしてなさい。あなた方がいかに即物的なセックスをしていたかよくわかりました。あなたは男娼としてもダメダメでしたが、蓮華さん相手でもダメですね」  辛辣なダメ出しをされて、蓮水は腹立たしい気分になった。  しかし、蓮水がなにか言い返そうと口を開く前に飯岡が蓮華へと声をかける。 「蓮華さん、いきなり突っ込んではいけません。それじゃあ痛いだけだ」 「えっ!」  蓮華が目を丸くして蓮水と飯岡を交互に見た。 「ハスミ、痛いの?」 「い、痛くなんて、」 「蓮水さん!」  ピシャリと名前を呼ばれ、蓮水は言葉を切った。 「あなたは少し黙っててください。蓮華さん、いいですか。まずは愛撫です」 「あいぶ?」  首を傾げた蓮華に飯岡が軽く頷いて、不意に蓮水の脇腹を撫で上げた。 「ひゃっ」  裏返った悲鳴が思わず漏れた。  飯岡を睨み上げたが、男は涼しい顔で蓮華へレクチャーしている。 「蓮水さんの体を、よしよししてあげるんですよ。触られて気持ちいいところはたくさんある。それを探すんです」  飯岡の言葉に、蓮華が素直に「うん」と頷き、あたたかいてのひらを這わせ始めた。 「ちょ……や、やだっ」  まさかこんな展開になるとは思っておらず、蓮水は狼狽して身を捩った。  しかし背後には飯岡、正面には蓮華の体があって、逃げることができない。  蓮華が慣れない手つきで蓮水をまさぐってくる。  その手が、胸の突起に行きついた。  こり……と指の付け根の膨らみの辺りで押しつぶされ、ビリっとした電流のような快感が走った。  蓮水は咄嗟に口を手で覆ったが、その蓮水の反応を逃さずに、蓮華がそこを責めてくる。    マシンを使って筋トレを行っている蓮華のてのひらは、少し硬くて。  敏感な胸の粒がひりりと痛んだ。  蓮水が呼吸を詰まらせると、すぐに飯岡の注意が飛ぶ。 「蓮華さん。もっとやさしく」 「うん」  素直に飲み込んだ蓮華が、こんどは壊れものに触るように慎重に乳首を(つつ)いてきた。 「もう少し強くしても大丈夫ですよ」 「でも、ハスミが痛くなる……」 「大丈夫です。これぐらいで一度摘まんでみてください」  飯岡が蓮華の手に己のそれを重ね、蓮華の指を導いた。  二人がかりでぷにぷにと突起を弄られ、羞恥で全身が薄赤く染まった。 「い、いやだ、飯岡っ、あっ、あっ、あっ」  硬くしこってきた乳首を、蓮華と飯岡の指先が嬲る。  嫌だ、と言いつつも驚くほど感じてしまい、腰がビクッビクッと不規則に跳ねた。 「ハスミ、いーおかの方が気持ちいいの?」  蓮華がムッとしたように眉を寄せて、唇を尖らせた。  そんなことないよ、と答えようとした蓮水の口からは、けれど喘ぎしか出てこない。 「んぁっ、あっ、ああ~っ、あっ」    体がおかしい。  いつもより敏感になっている。  乳首だけの刺激で達してしまいそうだ。    乱れる蓮水の上で、飯岡と蓮華が会話をする。 「あなたはこれからどんどん蓮水さんのことを知っていけばいいんですよ」 「でも、いーおかばっかりズルい!」 「では蓮水さんの一番感じる場所を教えてあげます。足を抱えてください」  飯岡に促され、蓮華が蓮水の膝裏に手を置いてぐいと折り曲げてきた。 「わっ、あっ、蓮華、ま、待ってっ」  赤子のおむつを替えるときのように両足を持ち上げられ、蓮水は思わず局部を覆い隠した。  飯岡が上体を少し乗り出し、背後から腕を回してくる。  男の手が、蓮華の手と入れ違いに膝裏を持った。飯岡に足を固定され身動きができなくなった蓮水とは逆に、蓮華は自由に動ける状態だ。  その蓮華へと、飯岡がすぐに次の動きを教えた。 「そこに香油を垂らしてください。女と違って濡れませんからね。たっぷりと潤さないと痛い」 「うん、わかった」   蓮水の防御を掻い潜って、先ほど強引に指を捻じ込んだ孔へと蓮華がとろりとオイルを落としてくる。 「まずはじっくり塗り込んで」 「こう……?」  指の腹が、窄まりを撫でた。  ひだのひとつひとつを確かめるかのように、ぬるぬると香油を広げてゆく。その仕草がもどかしくて、蓮水の後孔が慎みなく蠢いた。 「ハスミのここ、きゅうきゅう吸い付いてくるよ?」 「挿れてほしがってるんですよ。ゆっくりとどうぞ。一本だけですよ」 「は~い」  していることは淫らな行為のくせに、会話だけ聞けばまるで学校の教師と生徒だ。    飯岡に言われるがまま、蓮華の指が体内に潜り込んできた。  ゆっくりとした動きだった。  蓮水の反応を見ながら、じわりじわりと指が埋まってゆく。 「あ、あ、あ……」  太くて関節の張り出した蓮華の指。  その侵入を悦んで、蓮水の孔が締め付けた。 「もう少し進めて……そう、そこです。その辺りに少し硬くなったところはありませんか?」 「え~、わかんない」 「指を軽く折り曲げて。そうです」 「ん~……?」  ぬちゅり、ぬちゅり、と香油のぬめりを借りて蓮華の指が蓮水の内側を探った。  彼の硬い指の腹が、ある一か所を掠める。 「ひっ」  短い悲鳴が零れた。  蓮水のその声を聞いて、蓮華が目を輝かせた。 「あった~! これ? ここ?」  見つけたことが嬉しいのか、蓮華が容赦なくそこをぐにぐに圧迫してきた。 「ひぁっ、あっ、あっ、あぅっ」  蓮水の内腿が震えた。  乳首を弄られているときから頭をもたげていた性器が、先端からだらしなく愛液をこぼしている。 「そこが前立腺ですよ。勃起をするとそこも膨らむそうですから、そうやって探すといい」 「は~い」 「蓮華さん、そろそろ指を増やしても大丈夫ですよ」  他人事だと思って、飯岡が無情なことを言った。 「ま、待って、蓮華、待ってっ」  蓮水は慌てて蓮華の手を押さえようとしたが、それよりも早く二本目の指が入ってきた。  ぬくっと潜り込んだ指が、躊躇なく先ほどのスポットを探り当て、そこに当たるようにしてピストンを始める。 「んあっ、ああ~っ、やっ、だ、だめっ、だめっ」 「ハスミ、痛い?」 「これは痛いのではなくて気持ちいいんですよ」 「じゃあもっとする~!」  無邪気に笑った蓮華が、わずかに指のちからを強めた。 「ああ~っっっ! あっ、ああっ」  蓮水はその指に翻弄され、首を振って襲い来る快感から逃れようとした。  こんな……こんな、子ども同然の弟にこんなに乱されるなんて……。  飯岡のせいだ、と顔を振り向かせて涙の滲む目で背後の男を睨みつけようとした蓮水だったが、飯岡の眼差しがずっと自分に注がれていたことを知り、俄かに恥ずかしくなった。    『レンゲ』がしあわせになるところを見てほしいと言ったのは自分だけれど……こんなふうに一方的に喘がされることは想定していなかった。  飯岡には、蓮水が財部(たてべ)正範(まさのり)に抱かれていた場面をそれこそ数えきれないほど見られていたので、いまさらと言えばいまさらであったが、彼の視線をこんなに赤裸々に感じたのは初めてで……蓮水は羞恥に負けて飯岡から目を逸らし、「見ないで」と口にした。 「み、見るなっ、は、恥ずかしいから、あっ、あっ、ああっ」    蓮水の言葉を聞いた飯岡が、微かに笑った。   「恥ずかしいのなら、あなたが目を閉じてなさい」  いつもの声音で告げてきた飯岡が、足を抱えていた右手を離し、その手で蓮水の目を覆い隠した。             

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