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第52話

 暗くなった視界の中で、飯岡の指の隙間から漏れてくる弱い光が、蓮水(ハスミ)の瞳に刺さった。    目を塞がれたからといって、見られているという感覚が消えるわけではない。  飯岡の視線が注がれているかもしれない、という漠然とした妄想が逆に蓮水の肌を炙って、羞恥が高まった。  しかも、見えないせいで蓮華(レンゲ)の動きの予測がつかない。  ぐちゅぐちゅと後孔を掻き回され、同時に乳首も捏ねられた。 「ひぁぁっ、あっ、ああっ、あっ」  鋭い快感に腰が浮き上がる。    不意に左の乳首に熱くぬめったものが当てられた。 「ああっ」  悲鳴を上げた蓮水に構わず、そこをちゅばっと吸われる。  口だ。口での愛撫を受けているのだ。  舌で胸の突起を転がされ、吸引される。  これは……この動作は蓮華が行っているものなのか。  それとも……。 「い、いやっ、あっ、あっ、も、もう、吸うなっ」  左右のしこった粒と後孔の三点を同時に弄られ、あまりの快感に蓮水の目から涙がこぼれた。  感じすぎて怖い。  たぶん、射精をしていないというだけで、蓮水の体はなんども軽くイっているのではないか。  その証拠に、ビクビクとした不規則な痙攣が止まらない。  後孔も蓮華の指を締め付けて、うねり続けていた。 「蓮華さん、そろそろいいと思いますよ」  飯岡の声が聞こえた。  蓮華の指がずるりと出てゆく。  蓮水はハァハァと呼気を荒げたまま、首を振って飯岡の手を目元から外そうとした。しかし、男の手は離れなかった。  香油でぬるぬるの蕾に、ひたり、と熱塊が当てられた。  貪婪(どんらん)な体が期待に震え、(すぼ)まりがだらしなく開くのを感じた。  ぬちゅ……と先端が入り込んでくる。  笠の張り出した亀頭部分が、蓮水の肉筒を広げていった。 「あ、あ、あ……」  蓮水は切れ切れの声を漏らした。  視界を奪われているせいで、否応なくそこに集中してしまう。  蓮華の一番太い部分が、ぬりゅん、と収まった。  飯岡からなにかの指示があったのか、蓮華はそこで動きを止めた。  せっかく挿入したそれが、なぜか出てゆく。  ひだにカリが引っかかり、媚肉が捲れた。   「ああっ?」  抜けてしまったそれに、思わず失意の声が漏れる。   「れ、蓮華、なんでっ」  なぜ抜いてしまったのか、と問いかけようとした蓮水は、次の瞬間背を弓なりに逸らして嬌声を上げた。  蓮華がまた、亀頭部分を潜らせてきたからだ。  ぐぽっ、ぐぽっと浅い部分で抜き挿しを繰り返され、蓮水は悶えた。 「ああっ、あんっ、ちゃ、ちゃんと、挿れてっ、あっ、ああっ」 「……っ、だって、広げないと、ハスミが痛い、ん、でしょっ」  蓮水の訴えに、蓮華がこちらも苦しげな声で答えた。  飯岡に焦らすよう言われたわけではなく、蓮華なりに蓮水を気遣ってくれたがゆえの行動だったようだ。  けれど決定的な刺激を与えられずに生殺し状態となっている蓮水の奥は、きゅんきゅんと疼いていて、欲望が高まる一方だった。 「い、いいからぁっ、だ、大丈夫だから、挿れてっ、お、奥を、突いてっ」  蓮水は闇雲に足を動かして、蓮華の腰だろう箇所に巻き付けた。  そのままぐいとちからを入れると同時に、腰を前へ突き出す。 「わ、あぁっ」  蓮華が狼狽の声を上げた。  蓮水の肉壺に引きずり込まれるようにして、蓮華の牡が深く潜り込んでくる。  指で散々刺激された前立腺がこすり上げられ、蓮水の性器からぴゅっと精液が漏れた。 「あ~っ、あっ、あっ」  媚肉が蓮華を離すまいとうねうねと絡みついてゆく。  太く逞しい陰茎に貫かれ、全身がビリビリと痺れた。  気持ちいい。気持ちいい。  体がぴったりと合わさっている。  蓮水と蓮華が、ぴったりと合わさっている。  途方もない一体感に、こころが満たされた。 「れんげっ、好きっ、好きだよっ」 「お、おれも、ハスミのこと、好きっ、でも、いまは、ちんちん溶けそうっ」 「い、いいよ、動いて、いいよ」 「ハスミ、痛くない? 我慢、してない?」  自分の快感を追いたいだろうに、蓮水のことを辿々しく気遣ってくれる蓮華に、蓮水の胸が詰まった。  蓮水はなんども頷き、 「おまえの好きにして」  と願った。    蓮華が少しの逡巡の後で、ゆっくりと腰を動かし始める。  けれど肉筒をかき混ぜている内に我慢ができなくなったようで、それはすぐに激しい動きに変化した。  ぐちゅっ、ぬちゅっ、とオイルのぬめる音が結合部から響いた。   「ああっ、あぅっ、あっ、い、いいっ、いいっ」 「お、おれの、ちんちん、すぐに、出そうっ」 「あっ、お、オレも、イくっ、すぐにイっちゃうっ」    蓮水の感じる場所すべてに、蓮華の熱が当たり、限界はすぐに訪れた。  後孔が陰茎を食い締める。  蠢動が起こり、蓮華が呻く。  蓮水の中の動きに抗うことなく、深々と腰を打ち付けて。  蓮華が熱い飛沫を放った。  蓮水の最奥部が、蓮華の精液で濡らされた。  その刺激を受けて、蓮水も白濁を放った。  頭が真っ白になるほどの悦楽を味わいながら、蓮水は。  ああ、しあわせだ、と。  そう思った。  蓮華に抱かれてしあわせだ。  彼の欲望を受け入れることができてしあわせだ。  こころを通い合わせることができて、しあわせだ。  喜びの涙が無意識に溢れ、蓮水の目を塞いでいる飯岡の手を濡らした。    どんな顔をしているのだろう。  蓮華は。  飯岡は。  いま、どんな顔をしているのだろう。  見たいな、と思った蓮水の唇に、やわらかな唇が重なった。  舌を絡め合うディープなものではなく、静かなキスだった。  蓮華の唇ではないことは、すぐにわかった。  けれど蓮水は、拒まなかった。  批難の声を上げたのは蓮華だった。 「あーっ! だめっ! いーおかはハスミにちゅーしたらだめっ!」  怒った蓮華に、飯岡が微かな笑い声を漏らした。  唇が、触れたときと同じだけそっと離れていった。  「蓮水さんを盗られたくないなら、あなたはいい男にならないといけませんね」  いつものように淡々と応じる飯岡の言葉を受けて、蓮華が元気な返事を聞かせた。 「うんっ。なるよ~。おれ、いい男になるっ。ね、ハスミ?」    蓮水の目の上から、飯岡の手が退けられた。  明るい光が広がって。  半分閉じたような蓮水の視界に、蓮華の顔がアップで映り込む。  明るく無邪気な笑顔が、蓮水の胸にぱぁっと咲いた……。    

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