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第3話
鬼のような形相をした真珠が洗い場に入ってくる。
俺を押し退けると、光秀を抱き締め顔を覗き込んだ。
「…大丈夫か?光秀。もうアイツの好きにはさせねえから、安心しろ」
「……は、あ、…真 珠。…わりぃ、…おれ…」
真珠に抱き締められ、幾分か緊張が解けた光秀だったが、時おり後孔から零れ落ちる水滴に身体をふるりと震わせていた。
「…ふ、…ぅん…」
「……光秀?」
光秀の内股を流れ落ちる水滴。
スイアツを持ったまま憮然と立ち尽くす俺。
両者を見比べ光秀の身に何があったかを察した真珠が、俺の事を射殺そうとするかのような目付きで睨んでくる。
「…何してんだ、テメェ」
そんな普通の人間なら竦み上がりそうな真珠の眼光に、俺は体全体を奮わせる程の興奮を覚えた。
「…やっぱ、テメェはいいな、真珠」
「は?頭沸いてんのか、テメェ」
光秀の拘束を解きながらも、俺に対しての怒気を放ったままの真珠。
そんな真珠の様子に、光秀を責めていた時には感じられなかった高揚感と緊張感で全身がゾクリとする。
(今すぐヤツを押し倒して、俺の下で啼かせてえ。ヤツの全てを搾り取りてえ!)
だが、光秀を庇うように抱き締め気遣う真珠の姿には萎える。
光秀のヤツの上気した顔のまま浅い息を繰返し下肢をモゾモゾと擦り合わせる姿に…イラつく。
「…チッ。ヤル気が失せちまった。…そう言えばそいつ、テメェのせいでイきそびれてたぜ」
ククッと小馬鹿にするような笑いを残し、俺は二人に背を向け洗い場から出て行った。
イライラした気分のまま俺はリビングへと水分を摂りに行く。
だが、そこにはソワソワと落ち着かない様子の見知った顔がソファに浅く腰かけていた。
「……瑪瑙、か?」
「あ、真珠」
俺を見てホッとした顔をする、瑪瑙。
魚住家3兄弟の3番目だ。
「…お前、兄貴を呼び捨てにするなって言ってんだろ」
「いいじゃねえかよ~。兄貴が二人もいるんだぜ?イチイチ名前の後に兄なんて付けてられっか」
明るく悪びれないその様子は、末っ子特有の甘えがある。
「はあ。…で?今日は何の用があってここに来たんだ?」
「あ?さっき、外で会った時に言ったじゃねえか、…話があるって」
「あ、ああ、そうだった…か…」
「なのに部屋に入った途端、風呂場に飛び込むし、怒鳴り声がするし…、なあ、さっきのなんだったんだ?」
不思議そうに聞いてくる瑪瑙だが、俺は今の会話で出てきた情報を瞬時に整理する必要があった。
(瑪瑙を連れて来たのは真珠で、瑪瑙は真珠に話がある。話を聞く前に真珠は浴室へ行き俺と対峙したってとこか)
「ああ、さっきのは浴室に入って行く紫がかったヤツがいやがったからな、中で退治したんだ」
「…紫色の、虫?うえっ、キモっ。真珠、やっつけたのかよ?」
「当たり前だろ。って、そんな話をしに来たんじゃねえだろ?瑪瑙、お前の話はなんだ?」
俺が呆れたように言い、瑪瑙に話を振ると瑪瑙はビクッとし、また落ち着きなくソワソワとし始めた。
「…お、俺の話は、…その」
その顔は徐々に赤く染まっていき、上目遣いに俺の方を見つめてくる瞳は、言葉にするまでもなく瑪瑙の気持ちをはっきりと告げていた。
小さな頃から、すぐ上の兄・翡翠より長兄の真珠になついていた瑪瑙。
体の成長と共に真珠への想いも好意から恋心に成長してしまったのだろうか…。
大学生となった今の瑪瑙は、まだ少年の時のあどけなさは残すものの、すっかり男の顔をしていた。
「…真珠、…俺、やっぱり…、………真珠?」
マジマジと瑪瑙の顔を見つめる俺。
その時、不透明だった記憶の欠片が鮮明になっていく感覚に包まれた。
「……俺を呼び出したのは、お前だったのか?」
「…え? …真珠?」
呟いた俺の言葉が聞き取れなかったらしい瑪瑙が戸惑ったように聞き返してくる。
「…ふっ、こっちの話だ。だが、お前のお陰で『俺』が、今、ここにいるのかもしれねえ」
俺は瑪瑙の頬に手を添えると、妖艶に微笑みかけた。
「……し、真珠?」
「だから、お礼をしねえとな」
ゆっくりと顔を近づけていく。驚き体を硬直させる瑪瑙の目がギュッと閉じられた。
あと少しで唇が触れるという瞬間
瑪瑙の目を塞ぎその体を後ろに立つ自分の方に引き寄せたヤツがいた。
…黙ったまま俺を睨み付けてくる真珠だ。
その真珠が顎で扉の方を指し示す。
俺は「…はっ」と息を吐き出し真珠を一瞥すると扉の外へと出て行った。
と、真珠の腕の中にいた瑪瑙が暴れだす。
「テメェ、誰だ?!何しやがるっ」
腕の中から抜け出した瑪瑙が振り返り、そこにいた真珠に驚く。
「…え?え?…真珠?」
そんな瑪瑙の様子を見て苦笑いした真珠が、瑪瑙を諭すように喋りだした。
「…なあ、瑪瑙。前にも言ったが俺はお前の気持ちには応えられねえ。だから誰か他のヤツを探せ」
「それは前にも聞いた!だから俺だって他に目を向けたよ。でも真珠以上のヤツなんていねえんだ!」
「バカかお前は。俺以上のヤツなんざそう簡単にいるわけねえだろうが」
「だからっ…」
「だからじゃねえ!とにかく今日はもう帰れ。それで次にうちに来る時は、お前に見合ったヤツと一緒に来い」
そう言うと真珠は問答無用に瑪瑙を家から追い出した。
「…まったく『俺は諦めねえっ』とか言ってんじゃねえよ」
と、脱力して玄関から戻って来た真珠。
そんな真珠を捕まえムリヤリ唇を奪う俺。
抵抗されたが構わず唇を割って舌を挿入させ咥内を貪った。
「…は ぁ、…いい加減に、しろ、マジュ」
俺の口付けから何とか逃れた真珠が、更に俺の腕の中から逃れようともがく。
「瑪瑙を味わい損ねたからな。代わりを貰っただけだ」
だが、俺は真珠をガッチリと抱き締め離さない。
「…実の弟に、手を出すんじゃねえ」
「だから手は出してねえだろ?ああ、そうだ。光秀を食い損ねた代わりも貰わねえとな」
尚も逃げようとする真珠の身体をソファへと追いやり、押し倒す。
「…俺以外のヤツとヤるなと言ったハズだ」
「だから、ヤッてねえだろうが。だけど、食い損ねたのはテメェのせいだ。テメェの身体を代わりに差し出せ」
「…はあ?何言ってんだ?」
「イヤならいいんだぜ?寝室で眠っている光秀を食うだけだ。だけどテメェは光秀を食われたくはねえんだろ?だったら、真珠、テメェが代わりに俺に食われろ」
「なんだ、そのへ理屈はっ!」
と、叫ぶ真珠に、ニヤリと勝ち誇ったように笑う俺だった…
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