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第3話
『朝練に出るから、しばらく朝も一緒に行けない』
素っ気ないメッセージに起こされて、寝起きの頭でぼんやりスマホを見つめる。大会でも近かったかな、と記憶を探ったけれど、思い当たることは無かった。
宏隆を待たせている焦燥感が無くなれば、学校へ行く準備も捗らない。急ぐ母に小言を言われながらのろのろと朝食を食べ、その日は遅刻寸前に学校に着いた。
「おはよう、深水。珍しくギリじゃん」
「おはよ。なんか眠くてさ」
「あれ、今日は一人か。ついに?」
「ついにってなんだよ」
にやつくクラスメイトに、口を尖らせながら尋ねる。宏隆は別のクラスなので当然教室内に姿はないが、毎朝一緒に登校していることは知られているらしい。
「木南って入学当初からすごかったけど、最近さらにモテまくりじゃん。だからさ、ついに彼女でもできたのかな~と思って。ライバルが一人減るのは嬉しいよな」
ライバルかどうかはさておいて、例えば彼女ができたとき、宏隆は友宇に報告してくれるんだろうか。
「なんかもやもやするんだけど。これって普通なのかな」
「ああ、あるある。オレの友達取りやがって~みたいなのだろ。半分は嫉妬も入ってるから、深水にも彼女ができれば消えるよ。誰か紹介してやろうか?」
「ううん、遠慮しとく」
そういうものかとほっとして、痛む心は見ないフリをすることにした。
宏隆からの接触がなくなると、家が隣同士だというのに、驚くほど顔を見ない日が続いた。
物心がついた頃からずっと一緒に育ってきて、こんなに長く会わないのは初めてだった。おかげでどこか落ち着かず、宏隆に関する噂がよく耳に入って来る。
「深水の家って木南の家と隣同士なんだっけ」
「うん。それがどうかした?」
「木南って今ストーカーに遭ってるらしいじゃん。家にまで押しかけられて面倒なことになってるって話だけど、何か見たりしてない?」
「え……知らない」
「そっか~何度か振られてるのに付きまとってるって、かなりやべえよな。深水も気を付けろよ」
「ん、ありがとう」
必死に平静を装っていたけれど、頭の中はパニックに近い状態だった。自分に何ができるわけでもないけれど、何かしなければと思わずにはいられなかった。
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