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第4話
かつてない機敏な動きで閉館作業を終えた友宇は、離れた場所からこっそり陸上部の部室を見守る。部活仲間と連れ立って宏隆が出て来たのを確認し、尾行を開始した。
なぜこんなことをしているのか、もはや自分でもよく分からない。楽しそうに話しながら歩く宏隆を見ながら、自分はどうしたいんだろうと考えた。押し込めたはずのもやもやが溢れ出そうになっていて、助けを求めるように答えを探した。
いつの間にか、一人になって住宅街を歩く宏隆と友宇の間を、見慣れない制服を着た女子高生が歩いていた。
注意深く見ていると、宏隆と同じタイミングで立ち止まったり、姿が見えなくなると小走りになったりと、明らかに怪しい。とはいえそれだけでストーカーと決めつけるわけにもいかず、さらに観察しながら歩いた。
彼女は自宅に入って行く宏隆を、ただじっと見つめている。危険なことをする気配は無さそうだったので、ひとまず安堵のため息を吐く。そうして次の瞬間、息が止まりそうなほど驚いた。
「!?」
「あなた、木南君の幼馴染みとかいう人よね」
なぜか彼女の顔が至近距離にあり、ありったけの憎しみを込めた視線を送られている。
「そ、そうだけど。君は?」
「関係ないでしょ。それより、なんで木南君の邪魔するの?本当ならうちの学校に来て、今頃陸上で全国を狙える選手になってるはずだったのに。あんな部活のお遊びでやってるようじゃ、木南君の才能がもったいないわ」
よく見ると彼女は、陸上に力を入れていると名高い高校の制服を着ている。確か中三のとき、宏隆が推薦で行くだろうと聞いていた。
「おれが邪魔ってどういうこと?高校はヒロが決めたことだから――」
「あんたが行くから、木南君もこの高校にしたんでしょ!あんたのお守りがあるから!」
「……え?」
「もしかして気付いてないの!?信じらんない」
あまりに激昂する彼女に気圧され、友宇は何も言えず立ち尽くす。けれど彼女の言い分はどうしても気になって、刺激しないよう静かに続きを待った。彼女は息を大きく吸うと、一気に早口でまくしたてる。
「朝だって毎日送ってもらって寝ぐせまで直してもらって、帰りも同じであんたをストーカーおじさんから守りながら帰って後から撃退してたり、休んだ日にはクラスも違うのにプリントとかノートの写しまで届けたり、一緒にやってるテスト対策だってバカなあんたに合わせたレベルだし、常にあんたのGPSをチェックして変な場所に近付きそうになったら助けに行ったり、今だって私を近付けないようにあんたから離れてるだけでしょ」
内容を整理しようと若干の混乱と戦っていると、さらに彼女の機嫌は悪くなる。
「何か言ったらどうなの?」
「……他校の君がどうしてそんなことまで知ってるの?」
「関係ないでしょ!ムカつく」
ストーカーといえど自分よりよほど宏隆の行動を知っている彼女に、いろんな感情を通り越して感心してしまった。
確かに風邪で休んだ日は宏隆が来てくれて、いろいろと世話を焼いてくれた覚えがある。言われてみれば、クラスも違うのに授業の内容まで教えてくれるなんて親切にもほどがある。街中で偶然会って助けられたことも一度や二度じゃない。
「教えてくれてありがとう」
「はぁ!?」
目を剥いてキレる彼女に一瞬怯んだけれど、どうにか笑みを浮かべる。すると彼女の方も怯んだように、一歩後ずさられてしまった。
「毎日寝ぐせが付いてたこともストーカーがいたこともおれは知らなかったし、ヒロに助けられてたのに気付いてないことがたくさんあった。言われなきゃ気付かないままだったかもしれない」
「わ、分かったなら木南君から離れてよ」
「それはヒロが決めることだから。ヒロは今の陸上部で真面目に走ってると思う。環境は君の学校の方がいいのかもしれないけど、そんなことは承知の上でこの学校を選んでるはずだから、おれは何も言わない」
「そうやって自分の方が木南君のこと分かってるみたいな顔してんのまじムカつく!」
「……そうなのかな」
ぽつりと呟いたのは、彼女の言葉がサクッと心に刺さったせいだ。自分の知らない宏隆を彼女の口から知らされて、対抗意識が芽生えているのは否定できない。最近頻繁に感じていたもやもやが、一気に襲ってきたようにも感じる。
「なにしてんの」
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