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第5話

突然光が遮られ、隣に人影ができる。見なくても分かる馴染んだ気配は、宏隆のものだ。彼女は一瞬で青ざめ、かわいそうなほど震えている。 「あ、き、木南君……あの」 「次に来たら君の学校に連絡するって言っといたよね。何度誘われてもそっちの学校には行かないし練習に参加する気もないよ。今の成績はただの俺の実力不足ってだけで、環境のせいじゃない。それから――ユウに何かしたら、許さない」 初めて見る冷徹な表情の宏隆に怖気づきながらも、友宇はすっと彼女と宏隆の間に立つ。これ以上こんな表情の宏隆を見ていたくなかったし、酷いことも言って欲しくなかった。 「ヒロ、おれは何もされてないから。彼女も純粋に宏隆の才能を心配してのことだろうし、そんなに怯えさせなくてもいいんじゃないかな。彼女も……君も、ストーカーとしてうちの学校で噂が広まってるみたいだし、もう止めておいた方がいいと思うよ」 「私ストーカーなんかじゃ……」 自覚が無かったらしい彼女は、大きなショックを受けた様子で呟く。そうして、「違うから!」と一声叫んで去って行った。 呆然と見送って、見るのが怖かった隣の影に向き直る。宏隆は、場違いなほど子供っぽい妙な表情をしていた。 「それ、どういう表情?」 「拗ねてる、ユウが俺よりあの娘を庇ったから」 「そんなつもりじゃなかったけど、ごめん」 「まあいいよ。それよりさ、なんていうか、触ってもいい?」 宏隆にしては珍しく言いよどみ、意図が不明の提案をしてくる。宏隆の頼みを断る理由など一つも無くて、友宇は首を傾げつつこくりと頷いた。 向かい合って立つ宏隆の手が、そっと後頭部に触れてくる。さらりと髪をつままれて、さっきの彼女の言葉を思い出した。 「え、寝ぐせついてた?」 「どうかな。毎日、寝ぐせを直すフリでユウに触ってただけだし。最近、あの娘がいつ突撃してくるか分からないから避けてたけど、もう限界だった。ユウ不足で死にそう」 「何言ってんだよ」 ははっと思わず笑うと、強い力で引き寄せられる。ドクドクと跳ねる心臓の音を、学ラン越しに伝えられる。伝染するように友宇の心臓も早鐘を打ち、なぜか頬に熱が集まる。優しく包むように腕を回され、こうして宏隆に守られてきたんだと実感した。 ほとんど力の入っていない宏隆の腕は、友宇がいつでも逃げられるように配慮されている。その優しさに気付いて、友宇もおずおずと背中に手を回す。軽くぽんぽんと叩いてみると、すとんと落ちてくる感情があった。 「あ!ご、ごめんユウ、つい」 突然勢いよく離れようとする宏隆は、たぶん友宇以上に真っ赤になっている。袖を掴んで引き留め、少し上にある宏隆の目を、まっすぐ見据えた。 「あのさ、おれ、ワガママなんだけど、ヒロの隣を誰にも渡したくないみたい。それと、ヒロのことを守りたいと思ってるみたい」 もやもやの正体は、きっと独占欲だ。宏隆のことは自分が一番知っていたいし、常に笑っていて欲しい。宏隆が楽しそうだとほっとして、友宇も嬉しくなってしまう。それを遮る何かがあれば、自分がどうにかしてやりたいと思うのだ。 目を丸くした宏隆が、掠れた声を絞り出す。 「それって……つまり?」 「……どういうことだろう?」 素直に疑問を返すと、ガクリと残念そうに宏隆が肩を落とす。けれどもすぐに、絶対に逃がさないと言いたげな力で、ぎゅっと抱きしめられた。慣れているはずの宏隆の匂いに包まれて、いつもとは違う何かがぞくりと湧き上がる。 「そんなこと言われたら、もう我慢できなくなるよ。俺は隣にいるだけじゃ満足できない。俺以外の誰にも触らせたくない。ずっと……こうしたかった」 熱い腕の中に納まると、お互いの凸凹がぴったりはまったような、しっくりくる感覚がある。ここが自分の居場所だという実感が、じわりと心に染みていく。もうただの幼馴染みには戻れないと悟り、期待と寂寥が押し寄せる。 そうして、時間をかけてゆっくりと、二人で恋人になっていった。

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