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「あ、あのあのっ」
ホームルームが終了し。
帰ろうと鞄を手にした所で、前から声が聞こえてきた。
「良かったら、なんですけど、一緒に……」
最初手助けしたから、忍が自身の味方だと思っているのだろうか。それとも、席が近いから仲良くしようとでも思ったのか。
懸命という言葉が似合いそうな様子で話しかけてきた彼、春野蓮を忍は一瞥し、背中を向けた。
「あ、ありがとうございます!」
と、何を勘違いしたのか、彼が急に礼を言いだす。と思えば、忍の横に並び共に歩き始めた。
どうやら、一緒に帰ってくれると思ったようだ。
このままでは忍が何か言うまで彼は隣に居続けるだろう。
無視する事を諦めた忍は、「はあ」とわざとらしいため息を零し、それから一度立ち止まった。
「俺は、馴れ合いをするつもりはないんだ。今朝助けたのはただの気まぐれ、もう俺に構うな」
「え……?」
見た所、彼は強そうに振舞うよう努力しているようだが、全て空回りし逆に気の弱さを露見している。
そんな彼からしてみれば、こうもはっきりと、それも出来るだけ眼光を鋭くし言った言葉には、『はい』以外は言えないだろう。
実際、彼は忍の言葉を聞いた後、ぷるぷると震え出し……。
「も、もしかして、ヤンキーさん、ですか?」
「ハ?」
「ヤンキーさんですよね!? その鞄の持ち方といい、目線の強さも! それに、聞きました! 中学の時、強姦事件を起こしたって!」
「違う、暴行だ!」
「へ?」
暴行と強姦、四文字ということしか共通点はない。
例え聞き間違えたにしても、この間違いは酷すぎる。自分は、誰かを無理やり犯した事も、犯しかけた事もない。
と、理不尽な誤解を解こうと声を荒げたら、素っ頓狂な声を上げた彼は「あ」と自身の間違いに気づいたらしく、気まずそうに視線を逸らした。
「ま、間違えました」
ただの言い間違えで、本当にそう思っていたわけではないらしい。
一瞬でもそんな事件を起こす人と思われたら心外だ、すぐに誤解が解けたようで良かった。
と、ほっと息を漏らした所で、勢いが沈下したはずの彼から距離を詰められた。
「でもでも、ヤンキーさん、なんですよね!? オレもです! 仲良くしましょう!!」
そう言い、無理やり手を握られる。
「だっから! 馴れ合うつもりはねえって言ってるだろ!」
あまりの話の通じなさに、忍は思わずそう叫んでしまっていた。まだ教室に残っていた生徒の大半が、こちらに目を向け何事かと訝しむ。
元々忍は、この学校で友達なんてものを作るつもりはなかった。
ただ就職よりは進学の方が気が向いて、家から近かったこの学校に決めただけ、クラスメイトと馴れ合うつもりも、ましてや友達なんて甘っちょろいものを作るつもりもない。
忍と友達になろうなんて物好きは滅多に現れるものでもない、だから心配してなかったのだが、まさか初日からそんな物好きと遭遇するなんて。
ここははっきりと言って、今後も関わらずに済むようにしなければ。
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