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2-1 振り回されているのは、俺のようです

「忍くん! おはようございます!」  登校して真っ直ぐに忍の机へと向かった蓮は、バンっと勢いよく机に両手を付いて挨拶してきた。無視しようと視線を逸らしたものの、何度視線を逸らしても忍の視界に蓮は入り込み、仕方なしに忍は「……はよ」と呟く。 「忍くん! 今日のお昼、購買に行っちゃダメですよ!」 「ハ? なんで?」 「良いから、ダメです!」  ビッと指をさすと、タイミング良く鐘が鳴った。慌てて蓮は席に着き、入ってきた先生の声に教室中が集中し始める。  入学して早一週間。その間、蓮はずっと忍に付き纏い続けた。  元々広まっている噂もあり一人でいようと思っていたのだが、休み時間の度に話しかけられ、昼休みは当然の如く付いてきて、帰りも強引に一緒にいようとするのを忍は中々振りほどけないでいた。  蓮は明るい性格だ。人懐っこいし、ヤンキーだと言い張る変な意地さえなければ、誰とでも仲良くなれる性格だろう。  なのになぜ、わざわざ忍に付き纏おうとするのか……。  まぁクラスにいるヤンキーという事で、お手本という意味もあるのだろう。ヤンキーっぽい素振りをするとすぐに瞳を輝かせるので、憧れから一緒にいるのだと思う。 (あいつ自身には生かされていないようだがな)  前に座る蓮を見ながら、ふと思う。  ヤンキーに憧れ、自らヤンキーを名乗るくせに、その雰囲気はいじめられっ子のままだ。蓮がお金をたかられている場面に遭遇したところで、忍は驚きやしないだろう。 「忍くん!」  とそんな事を考えていたら、いつの間にか先生の話は終わっていたらしい。 「次、移動教室ですよ! 移動しましょう!」  何が楽しいのか明るくそう言う蓮に「ああ」と頷き、忍は化学の教科書を鞄から取り出した。 「……な、なんでですか」  昼休み。  登校してきた時には晴れていた空が、今にも降り出しそうな程曇っているのを見て、忍は外に出る事は諦め適当に空いている教室にて腰を落ち着かせた。  久しぶりの一人に体から力を抜きだらりと椅子にもたれるが、先生に呼ばれ「待っててください!」と言っていた蓮はすぐにやってくるだろう。  どこに行っても嗅ぎつけてくる変わった奴、それが蓮という男である。 「あ!」  案の定すぐにやってきた蓮は、忍の前に置かれたパンを見てガーンという効果音が聞こえてきそうな程ショックを受けた顔で忍に詰め寄った。 「何で購買に行ったんですか!?」  朝、ちゃんと言ったのに! と喚きたてる蓮を、うるさそうに顔を顰め忍は見やる。

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