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桃陽・7

 俺は考え込むフリをしながら、目の前のちっとも喋らない男――雀夜を盗み見た。  見れば見るほど、俺のタイプだ。きりっとした眉毛に、厚めの二重瞼、高い鼻筋。セクシーな唇に首元、大きな手、その下で組まれた長い足。黒髪は無造作にセットされていて、これで「モデル」と言われれば事情を知らない者なら、怪しげなAVなんかじゃなくて、ファッションモデルと勘違いするかもしれない。  一度、彼と体を合わせてみたい。そう思った俺は、義次さんに顔を戻して言った。 「スタッフに聞きましたよ。俺と同室希望とか、なんとか」 「桃陽が承諾してくれないなら、雀夜に強硬手段を取ってもらおうかなと思って」  義次さんは冗談ぽく笑うけど、たぶんそれは本音なんだろう。それほど、雀夜という男はセックスに自信があるということか。俺の気持ちをたった一度抱いただけで、百八十度変えてしまうという訳か。なるほど、それは興味がある。 「……そうだね、ここで承諾するのは無理かな。もっと説得が必要かも」  冗談ぽい笑顔で義次さんを見ると、すぐに義次さんが雀夜に視線を向けて言った。 「じゃあ、雀夜。行ってくれる?」 「………」  雀夜が面倒臭そうに溜息をついて、ソファから立ち上がった。俺はその隣にぴったりと付き、二人一緒にフロントへ部屋の鍵を貰いに行く。こうして並んで立ってみると、雀夜は見上げるほどに背が高い。抱きしめられたら、すっぽりと彼の胸に収まって心地好いだろうなと想像する。  スタッフが雀夜に鍵を渡しながら言った。 「本日の桃陽の同室は時間の上限がございまして、最大で百二十分までとなっております。六十分コース、九十分コース、百二十分コースとございますが、如何されますか」  雀夜は顔色一つ変えずに「六十分」と呟いた。予想通りのハスキーボイスで、耳の奥が震えるような錯覚に陥る。 「個室は二階の202号室となっております。ごゆっくりどうぞ」  スタッフに見送られながらエレベーターに向かう。俺は雀夜の逞しい腕にしがみつくようにして歩きながら、顔を曲げて彼を見上げた。 「俺を説得するのに、六十分で足りるかな」 「それだけあれば十分だ」  素っ気なく言う雀夜。早くその顔が快感に崩れるところが見たい。俺にとって「本当のいい男」の条件は、兎にも角にもセックスが上手いことだ。見かけ倒しで俺をがっかりさせないでくれよ。心の中で呟いた。

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