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雀夜

「雀夜さん、身長いくつ?」 「187」 「うわ、俺より二十センチも高いんだ。力もありそうだし」  エレベーターに乗り込んですぐ、俺は雀夜の正面に向かい合って立った。 「俺のことさあ、抱っこできる? してみてよ、今」 「………」  雀夜の手が俺の両脇にグッと入ってきて、そのまま高々と抱き上げられた。あと少しでエレベーターの天井に頭がぶつかりそうだ。 「わっ、すげえ。高い!」  子どもが親に抱っこされるみたいな格好で、俺はぎゅっと雀夜の首を抱きしめ、両足を体に巻き付かせた。  202号室の前に来て鍵穴に鍵を差し込む時でも、雀夜は片腕で俺を抱っこしたままで、息一つ切らしていない。これは相当に体力がありそうだ。 「部屋に入ったら六十分スタートだよ。特別にシャワー浴び終わってからのカウントでもいいけど」 「会社で浴びてきたからいい」 「ふうん。……本当はルール違反だけど、まぁいいや」  大きなベッドの上にようやく下ろされ、そのまま抱き合いながら深く沈んでゆく。 「じゃ、しよ」  上目に雀夜を見つめて唇を噛みしめた。すぐに雀夜の唇が俺の弛んだ頬に触れ、顎に触れ、首筋に触れる。俺は雀夜の黒髪に指を絡めて笑みを浮かべた。期待で胸が高鳴っている。  スーツのジャケットが脱がされ、黒のシャツのボタンが外されてゆく。 「脱がすの早いし、上手いね。すごく慣れてる手付きだ」 「何百人って脱がしてきたからな」 「俺も何百人て脱がされてきたよ」  負けじと言い返す俺を、雀夜が鼻で笑った。ネクタイが抜かれる。 「嘘だと思ってるだろ? 本当だよ」 「別に信じてない訳じゃねえよ。ただ――」 「ただ?」 「お前みたいなガキを喜んで相手にする男がいると思うと、何でも需要があるモンだなと思ってさ」  俺はムッとして雀夜を下から睨みつけた。 「失礼な奴だな。そういう自分が今、俺を相手にしてるくせに」 「俺は上から頼まれてやってるだけだ」 「俺のこと、見くびってるでしょ」 「当然だろ。ガキ相手に本気になる訳がねえ」 「ガキかどうか、試してみれば分かる」  俺は雀夜の胸倉を掴んで引き寄せ、唇を合わせた。目を閉じて舌を絡ませ合う。雀夜の舌は熱く、濡れていた。 「ん、ん……」  俺の頭をベッドに押し付けるようにして、雀夜が深く舌を絡ませてくる。息苦しさに薄らと目を開けると、雀夜も俺を見ていて至近距離で視線が繋がった。  唇がほんの僅かに離されて、舌だけが触れ合う状態になる。その頃には俺の呼吸は弾み、頬は真っ赤になっていたかもしれない。 「あ……」  雀夜が俺の両手首を掴み、枕元で一つに束ねた。白いネクタイが手首に巻き付けられ、あっという間に拘束されてしまう。 「何すん……」 「チビガキでも暴れられると面倒だからな」  縛られるなんて、客とのプレイで何回でもやったことがある。つくづく俺は雀夜に見下されているのだと知り、それならと作戦を変更した。 「いいよ。雀夜がやりたいこと、何でも俺にして……」  潤んだ目で見つめると、雀夜は「当然そのつもりだ」と言ってから俺のベルトに手をかけ、ズボンを脱がしていった。 「………」  パンツはそのままで、シャツの前ははだけられ、両手は拘束されている。そんな自分の姿を思うと、段々と興奮してきた。ここから一体どうするんだろう。 「ガキ、名前は桃陽とかいったっけか」 「そうだけど……」  雀夜が俺の体の上に乗ってきて、唇を耳元に寄せて言った。 「それじゃあ桃陽。今から俺が許可するまで、声を出すなよ」 「えっ……?」

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