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雀夜・2

 一瞬うろたえたが、すぐに雀夜が俺を試しているんだと悟って頷いた。 「………」  唇がそのまま、俺の耳に触れる。雀夜の熱い息がかかる。耳の縁を舌でなぞられ、俺はぎゅっと目を閉じてそれに耐えた。  なんだか知らないが、彼はこういうプレイが好きなんだろう。この場合、必死に声を出さずに我慢するべきか、それとも完璧な無反応を貫くべきか……。どちらも俺にとっては簡単なことだけど、まだ彼の好みが分からないから反応しようがない。  耳を舐めながら、急に雀夜の手が俺の脇腹に触れた。そのまま上の方にずらされ、体の中で取り分け俺が弱いところに触れられる。 「っ……」  ゆっくりと、雀夜の指先が俺の乳首を愛撫する。俺は目を閉じたままで少しだけ背中を仰け反らせ、その刺激をもっと望んだ。 「お前、ここが急所なのか?」  嘲るように雀夜が耳元で囁いた。低い声が体内から俺をざわつかせる。もっと何か言ってほしい。触ってほしい。どうせなら、俺を滅茶苦茶にしてほしい――。  だけど雀夜は俺の耳を甘噛みして乳首を指の先で転がすだけで、なかなか次に進んでくれない。段々ともどかしくなってきて、俺は自分から雀夜のそれに触れようとした。――が、即座に両手を拘束されていることを思い出す。  六十分しか時間がないのだ。既に二十分は経過している。このまま焦らされて、最後の十分で適当にイかされるだけなんて絶対に嫌だ。だけど雀夜の性格を考えると、かなりの確率でそれも有り得る。  それから更に五分以上が経過した。未だに乳首以外に触れてこないのに焦れてきた俺は、 「雀夜……」  約束を破って、恐る恐る口を開いた。 「あの……。もっと、触って」 「あ?」  俺は顔が真っ赤になるのを感じながら、それでも雀夜に懇願した。 「時間ないし……。いっぱい触って……その、……してほしい」 「……それがお前の本心か」  雀夜が納得したように言って、俺の耳元から顔を上げた。  その瞬間、ハッと気付く。  自分から本音で客にそんなことを言うのは初めてだった。普段は客がどんなに俺を焦らしても、冗談ぽく笑って先を強要するだけだった。あるいは完全に冷めきって、感じてるフリをするだけだった。  三十分も経ってない。それなのに俺は、もう雀夜に対して「負けて」しまっている。両手を拘束され、声を出すのを禁じられた。  ただそれだけのことで――

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