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2- 本当に欲しいのは?(1)
休みの日の朝でも、俺は平日と同じ時間に目覚める。
二度寝はしない。
カーテンを開けて、さっさと洗面を済ます。
その後は、予定があれば出かけるが、ほとんど家で過ごすことが多い。
だが今日は欲しい本を買いに出かけるつもりだ。
とは言えまだ9時前だ。
少し冷えるので、しばらく紅茶を飲みながらのんびり過ごす。
自動給餌機で食事を終えた鈴が膝に乗ってきた。
温かいマグカップで両手を温めながら椅子に座ってぼんやりする。
ああ、駄目だ。
どうしても昨日の神崎の言葉が耳に残って離れない。
『俺、槙野さんが好きです』
たった一日、近くで仕事をしただけの相手に、そんなことを言えるものだろうか。
俺なら言えない。
言った後のことをどうしても考えてしまうからだ。
確実にYESと答えてもらえる確信が持てるまで、俺は足踏みし続けるだろう。
いや、確信が持てても踏み切れない。
現に俺は……。
神崎の無謀さ、いや、勇気が羨ましい。
と、いうか、あんな場所、いつだれが入ってくるかわからない場所で、しかも仕事中に告白するか?
思っていた通り、なかなか常識の通じない男のようだ。
そのまましばし、俺は神崎のことを考えながら紅茶を飲んで温まっていた。
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