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2- 本当に欲しいのは?(2)
さて、店もあいたろうし、出かけようか。
俺は着替えると、髪を梳かして身支度をした。
車を持っていないので、移動手段はいつも電車だ。
最寄り駅まで歩いて5分ほど。
今日は考え事をしながらのんびり歩いて8分かかった。
電車に乗って、本屋へ向かう。
電車は、普段の出勤時と違って学生や家族連れで混み合っていた。
なかなかの喧騒ぶりだ。
いささか辟易しながら目的地で降車した。
駅近くの商業施設が今日の目的地だ。
まずは上階にある本屋へ向かう。
新刊コーナーをぶらついてから、文庫本の方へ足を向ける。
俺の読書傾向は極めて雑多だ。
一番好きなのは推理小説か時代小説だが、エッセイも読むし、SF小説も好きだ。
一時期山岳小説にはまったこともある。
今日は推理小説を何冊かと、気になった時代小説を数冊買った。
ずしりと重い紙袋を片手に機嫌よく本屋を出ると、ふと向かいの雑貨屋が目に入った。
いや、正確には雑貨屋が設置しているガチャガチャだ。
何だか見たことのある猫のイラストが描かれている。
『ぶちゃねこ』
やっぱり。忘れようのないネーミング。神崎が集めていると言っていたシリーズだ。
一瞬迷ったが、バッグから財布を取り出してしゃがみこんだ。
ガチャガチャなんて子供の頃以来だ。
片頬で自分に言い訳の苦笑をしながら、百円硬貨を投入してレバーを回した。
懐かしいレバーの重みと共に、カタリとプラスチックのカプセルが落ちてきた。
おい。これは……当たりじゃないのか。
ふてぶてしい顔をした猫が鍋にすっぽり入って目を細めていた。
◇ ◇ ◇
食品売り場に寄って、ついでに今日の夕飯の材料を調達する。
といっても肉と野菜を少量買うだけだが。
ふと思いついて、菓子売り場の近辺を探してみる。
あった。
栄養バーが結構並んでいた。一本ずつ数種類買ってみることにした。
忙しいときはこれで晩飯も済ませられそうだ。
会計を済ませ、近くのカフェで昼食代わりにサンドイッチと紅茶を注文する。
卵サラダのサンドイッチとハムとレタスのサンドイッチだ。
買った本を読みながら、ゆっくり食べる。
小さい頃から食が細かった。
小学校の給食の時間は地獄だった。
給食係の子に頼み込んで極力量を減らしてもらい、それでも食べるのに苦労した苦い思い出がある。
デザートの類は友人にこっそりあげていたので喜ばれたが。
給食を食べると夕飯が入らず、平日は給食のみなんてこともざらだった。
大人になって一人暮らしをするようになってからは、食べる量を気兼ねなく好きに調整できるので、胸焼けすることも減った。
たまに実家に帰った時くらい、親の手料理をいっぱい食べてやったほうが親孝行なのだろうが、こればかりはどうしようもない。
両親も小さいころからの俺を見ているので、好きなおかずを少し食べるだけで満足してくれる。
そういえば最近仕事ばかりで実家に帰ってないな……。正月も仕事だったし。たまには電話くらいするか。
さあ、食べすぎた。腹が重い。しばらく本を読んで消化されるのを待つとしようか。
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