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2- 本当に欲しいのは?(6)
『神崎さんの歓迎会を実施します。場所は飲み処○○、会費は4,500円です。18時半集合をお願いします』
歓迎会という名の飲み会の連絡がメンバー間を回った。
先日俺が高橋に頼んだやつだ。
午後を過ぎた辺りから、メンバーの動きが明らかに定時退社を意識したものに変わった。
打ち合わせが減り、急ぎでない仕事は明日に回される。
いつもこうすればいいのにと俺はちょっと思う。
もちろん、机上の空論で、現実は毎日これをやっていたら業務が回らないのは分かっている。
実際、俺のみだが、うまくいかなかった。
夕方ごろ、維持管理のグループでトラブル発生。
そういえばあいつがそこにいるじゃないかと、以前構築していた有識者として俺が呼ばれた。
当然定時までに片付くはずもなく、歓迎会の開始時刻も無情に過ぎていく。
ついてないなと思いながら、システムの管理画面を睨みつける。
「これで、エラーのないバックアップデータが拾えるはずなんですが……、そっちで見れますか?」
担当者に声をかけると、画面を操作する音が聞こえ……続いて歓声が上がった。
「ありがとうございます!データあります!中身も完璧です」
「そうですか。そしたらですね……」
もうこうなったら乗りかかった船だ。
また何か起こって飲み会途中で呼ばれるのも嫌だ。最後まで面倒を見てやることにする。
結局、1時間遅刻で飲み屋に着いた。
「遅れてすまん」
お疲れさまですの声と共に、神崎のブーイングの声が容赦なく飛んでくる。
「槙野さん、歓迎してくださいよー」
「申し訳ない。トラブルに巻き込まれて」
「そんなのほっといたらいいじゃないですか!」
「そういうわけにいかないだろ」
どうやら酔っているらしい。
神崎が本気で拗ねている。
空けておいてくれた席に着くと、幹事の高橋が声を上げた。
「じゃあ、プロマネが来たところで、0次会はいったん終了して、1次会始めましょうか」
おー!と声がそこここで上がる。
こんなに元気なやつらだったか?
こいつら、もう十分できあがってるんじゃないのか。
「それでは、槙野さん乾杯の音頭をお願いします」
はあ。苦手なやつだ。
「大幅に遅れて申し訳ない。神崎くんの着任を祝して、乾杯!」
わいわいとジョッキをぶつけ合う音が響く。
◇ ◇ ◇
しばらくつまみを少しつつきながら烏龍茶を飲んでいると、神崎が寄ってきた。
「まーきーのーさーん」
ビールジョッキを抱えて、こいつ、ここに腰を据える気か。
「飲んでないじゃないですかー」
「飲めないんだよ。今日は飯を食いに来た」
そういうと、神崎は不満げに片頬を膨らませた。
「違うでしょー。俺を歓迎しに来てくれたんじゃないんですかー」
「さっき歓迎したろ」
「足んないっす」
「はいはい。よく来たよく来た」
おざなりに神崎の頭を軽く撫でてやると、なんとか満足したらしい。
にこぉっと笑うとジョッキを空にした。
「ビールお代わり―」
高橋がピッチャーから神崎のジョッキにビールを注ぐ。
「あんがと」
今日はにこにこ笑顔の大盤振る舞いらしい。高橋にお礼と共に笑いかけている。
「ずいぶん機嫌良さそうだな」
俺が言うと、神崎は当たり前だと言いたげな顔をした。
「だって楽しいですもん。俺、飲み会大好き。このチームの人たちもいい人ばっかりだし」
「そうか?俺筆頭に変人揃いじゃないか。早野とか」
テーブルの向かいの早野が不服を申し立ててくるが無視する。
「いやいや、早野さんめっちゃ面白いです。さっきからクリティカルジョーク連発で、高橋くんが笑い死にそうでしたもん」
そういえば、早野は酒が入ると陽気になるタイプだったか。
「高橋くんもいい奴だし。俺といっこしか違わないのにちゃんと話聞いてくれるんですよ」
「え、神崎幾つだ?」
「前に言ったじゃないですか。23です。あ、でも専卒なので3年目ですけど」
ずいぶん若いな。会社も思いきった人選をしたものだ。もちろん能力に不足はないが。
「えー、槙野さんも酒飲みましょうよぅ」
「結構だ」
早野も口を挟む。
「無理だよ神崎。俺槙野さんと付き合い長いけど、酒飲んでるとこ一回も見たことないぜ」
「そーなんですか?えー」
残念そうに神崎が口を尖らせる。
何がそんなに不満なんだか。
飲みたい奴が飲めばいいと思うのだが。
「じゃーわかりました」
「は?」
「俺も烏龍茶飲みます」
神崎が堂々と訳のわからない宣言をした。
「勝手にしろ」
「注いでください!」
語尾にハートマークでも付きそうな可愛い笑顔で空のグラスを俺に向かって差し出してきた。
「なんで俺が」
俺は烏龍茶のピッチャーを取ると渋々神崎のグラスに注いでやった。
「あざっす!槙野さん、乾杯!」
「乾杯」
烏龍茶同士で乾杯する。
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