10 / 128

2- 本当に欲しいのは?(7)

その後は飲み会のノリでどたばた騒ぎだった。 よくも悪くも、神崎が来たことでチーム内の空気が明るくなり、結束が強まった気がした。 悪くも、というのは、俺にとっては少しうるさいという個人的な理由だ。 俺が無愛想な分、ちょうどいいのかもしれないが。 しばらくして、店員が来て高橋に耳打ちした。 「あー、皆さん宴もたけなわですが、時間になりました。開始の挨拶は槙野プロマネにいただいたので、最後は神崎リーダー一言お願いします」 高橋が神崎にふる。 「え、何か言うの?……若輩者ですが、皆さんの力になれるよう精一杯頑張りますので、優しい目で見守ってください。特に槙野さん!」 「え、俺厳しいか?」 そこにいた大半が頷いた。……覚えてろよ。 「というわけで、今後ともよろしくお願いします!」 ぱちぱちと拍手が起こり、歓迎会は終了した。 それぞれに帰り支度を始める。 俺も立ち上がると、バッグに手を伸ばし……神崎に止められた。 「槙野さん槙野さん!」 神崎が座ったまま、俺のワイシャツの袖を掴んでいる。 「なんだよ神崎」 「俺、立てないっす」 「はあ!?」 「足が立たないの。ほら」 立ち上がろうとした神崎が、しゃがんだ体勢から起き上がることなくへたりと座り込む。 「そんなに飲んでなかったろ」 「二杯だけ……えへ、実は俺酒弱いんです」 神崎は両手で頬を押さえる。 「何やってんだ。自重しろよ」 「だって楽しかったんですもん」 にっこりと小首を傾げる。 こいつは……。 もういつの間にか周りのやつらはさっさと外に出てしまって、残るは俺たち二人だけだ。 仕方ない。 「はあ。ほら、手を貸してやるから立て。とりあえず店から出よう」 「す、すみません」 俺が手を差し出すと、一瞬躊躇った神崎はその手を取った。 掴んで引っ張りあげ、肩を貸す。 「……神崎お前、意外と背高いな」 俺が痩せてるせいもあるだろうが、覆い被さられるような格好になる。 「別に俺はそんなにでかくないですよ。槙野さんが小さ……あ、やめて、怒らないで」 神崎は酔ってるせいか機嫌がよく、一言多い。 俺がムッとした顔で睨むと、抱きつくように首元に空いた腕も絡めてきた。 これじゃ俺が神崎に後ろから抱きしめられてるみたいだ。 「俺だって平均身長はあるぞ。余計なこと言うなら置いてくからな」 「槙野さん華奢だから」 とうとう余計なことしか言わなくなった。 「腕離せよ。おっさん相手に華奢とか言うな。喧嘩売ってんのか」 「いやいやほんとに。てゆか槙野さんがおっさんとかとんでもない」 店の出口に近づき、外で皆が待っているのが見えて、神崎は抱きついていた方の片腕をすっと外した。

ともだちにシェアしよう!