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2- 本当に欲しいのは?(7)
その後は飲み会のノリでどたばた騒ぎだった。
よくも悪くも、神崎が来たことでチーム内の空気が明るくなり、結束が強まった気がした。
悪くも、というのは、俺にとっては少しうるさいという個人的な理由だ。
俺が無愛想な分、ちょうどいいのかもしれないが。
しばらくして、店員が来て高橋に耳打ちした。
「あー、皆さん宴もたけなわですが、時間になりました。開始の挨拶は槙野プロマネにいただいたので、最後は神崎リーダー一言お願いします」
高橋が神崎にふる。
「え、何か言うの?……若輩者ですが、皆さんの力になれるよう精一杯頑張りますので、優しい目で見守ってください。特に槙野さん!」
「え、俺厳しいか?」
そこにいた大半が頷いた。……覚えてろよ。
「というわけで、今後ともよろしくお願いします!」
ぱちぱちと拍手が起こり、歓迎会は終了した。
それぞれに帰り支度を始める。
俺も立ち上がると、バッグに手を伸ばし……神崎に止められた。
「槙野さん槙野さん!」
神崎が座ったまま、俺のワイシャツの袖を掴んでいる。
「なんだよ神崎」
「俺、立てないっす」
「はあ!?」
「足が立たないの。ほら」
立ち上がろうとした神崎が、しゃがんだ体勢から起き上がることなくへたりと座り込む。
「そんなに飲んでなかったろ」
「二杯だけ……えへ、実は俺酒弱いんです」
神崎は両手で頬を押さえる。
「何やってんだ。自重しろよ」
「だって楽しかったんですもん」
にっこりと小首を傾げる。
こいつは……。
もういつの間にか周りのやつらはさっさと外に出てしまって、残るは俺たち二人だけだ。
仕方ない。
「はあ。ほら、手を貸してやるから立て。とりあえず店から出よう」
「す、すみません」
俺が手を差し出すと、一瞬躊躇った神崎はその手を取った。
掴んで引っ張りあげ、肩を貸す。
「……神崎お前、意外と背高いな」
俺が痩せてるせいもあるだろうが、覆い被さられるような格好になる。
「別に俺はそんなにでかくないですよ。槙野さんが小さ……あ、やめて、怒らないで」
神崎は酔ってるせいか機嫌がよく、一言多い。
俺がムッとした顔で睨むと、抱きつくように首元に空いた腕も絡めてきた。
これじゃ俺が神崎に後ろから抱きしめられてるみたいだ。
「俺だって平均身長はあるぞ。余計なこと言うなら置いてくからな」
「槙野さん華奢だから」
とうとう余計なことしか言わなくなった。
「腕離せよ。おっさん相手に華奢とか言うな。喧嘩売ってんのか」
「いやいやほんとに。てゆか槙野さんがおっさんとかとんでもない」
店の出口に近づき、外で皆が待っているのが見えて、神崎は抱きついていた方の片腕をすっと外した。
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