12 / 128
2- 本当に欲しいのは?(9)SIDE:神崎
俺は今かなり幸せだった。
好きな人の肩に身を預けて、うつらうつらしている。
さっきはどさくさに紛れて抱きついてみたけれど、それほど嫌がられなかった。
腕の中にあった華奢で繊細な体。求めてやまない人。
それが今はすぐ隣にいる。
これは夢なのかな?
うん、たぶん夢だ。
だって目を閉じるとふわふわしてこんなに暖かい。
飲みすぎ?酔っ払い?
まあいいじゃない。それでも。
こうして槙野さんに甘えられるのだから。
気を抜くと本当に眠り込みそうになるのを、やっとのことでうつつにしがみついている。
今眠ってしまうなんてもったいない。
槙野さんの傍に居られるこの時を、最大限に堪能しないと……。
……。
…………。
「神崎。10分経ったぞ。起きろ」
は!?寝てた?寝ちゃった?やってしまった。
重い瞼をしばたたきながら開けると、大好きな人が心配そうに覗き込んでいるのがまず目に入った。
槙野さんがずっと傍に居てくれた。
それが幸せすぎて、思わずにこりと大きく無防備な笑顔を浮かべた。
とたんに槙野さんがほっとしたような、しかし苦しそうな複雑な表情になった。
「槙野さん?」
「あまり、頭を撫でてやりたくなるような顔をするな」
「え?」
寝ぼけ頭では理解が追い付かず、思わず俺は聞き返した。
怒られた。
「だから!そういう可愛い顔で笑うなっつってんだよ!いつもみたいに、にっ、って笑えよ!」
心なしか槙野さんの白い頬がほんのり赤くなっている。
なに今俺のこと、可愛いって言った?
これは、もしかして?
酔いが一気に醒めていく。
「槙野さん、もしかして」
「知らん。帰るぞ」
槙野さんは二人分のバッグを持つとそっけなく立ち上がる。
「え、待って待って槙野さん」
慌てて俺も立ち上がる。
「もう歩けるな?大丈夫だな?」
ちょっとだけ振り返って念を押した槙野さんは、さっさと駅の方へ歩いていく。
え!やだ!もっと槙野さんに甘えたい!
あわよくば槙野さんにもう一回抱きつきたい!せめて手を繋ぎたい!
これで終わりなんて!
やだ!待ってよ槙野さん!
そんな顔されて、黙ってられるアタシじゃないのよ!
あ、ちょっと興奮してオネエ入っちゃった。
とにかく!
脈ありっぽくない?敗者復活ありじゃない?
頑張っちゃうわよアタシ!
ねえ、ちょっと待ってよ槙野さん!
ともだちにシェアしよう!