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4- しつけは飼い主の責任です(1)SIDE:神崎
やばい。やばい。やばい。
何がやばいって、俺の心臓がやばい。
槙野さんの家に遊びに行くため、駅で槙野さんと待ち合わせをしたわけだけど、槙野さんに声をかけられない。
だって!
私服の槙野さんが!
エロ美しすぎて!
いつも会社では前髪上げててきりっとしてるから、かっこいいな、完璧で美しいな、としか思ってなかったけど、私服だと前髪下ろしてるんだ。
ぎりぎり目にかからないくらいの長めの前髪を斜めに流してて、エロい。
色気垂れ流し。
それにVネックのシャツで、細い鎖骨が見えてる。
そんなの人に見せちゃだめ!
俺の槙野さんなのに!
あ、いや、槙野さんは俺のではないのか、今は、まだ。
アタシは槙野さんのだけど!槙野さん、アタシのご主人様だから!キャーーーー!
……ふぅ、ちょっと興奮しちゃったけど、槙野さん、なんかの規制に引っ掛かるんじゃないかってくらいエロかっこいいの。
大きめサイズの厚手のカーディガンも、華奢な槙野さんに似合っててすごく俺の好み。
なんなのもう槙野さんは。俺をどうしたいの?
どうすればいいの俺?
もう待ち合わせの時間過ぎちゃってるんだけど。
柱の影から出られないのー!!
声かけて、あの切れ長の目で見られたら、たぶん俺エロみ過多で鼻血出る。
出血多量でぶっ倒れる。
あ、やば。
俺がここにいるの槙野さんにバレた。
こっち睨んでる!
こっち来てる!
「おい、神崎。遅刻だぞ。そんなところで何やってる」
「あ、あは」
俺を待たせるなくらいの勢いで、槙野さんが俺のこと睨んでる。
うん。
睨んでる目もゾクゾクするくらいセクシーで、堪らない。
あ!置いてかないで!
◇ ◇ ◇
すたすたと駅を出て行く槙野さんを追いかけて、俺も街の中へ歩き出す。
繁華街ってほどではないけど、商業施設が充実してて、わりとにぎやかな雰囲気だ。
槙野さんに追いついた俺は、横目でちらちら見ながら槙野さんの隣を歩く。
前髪が揺れて、いつもの横顔が5割増しで美しい。
「槙野さんち近いの?」
「ああ、すぐそこだ」
駅前を離れると住宅街になり、マンションが立ち並んでいる。
俺たちはその中の比較的新しそうな一つに入っていった。
自動ドアを抜けて、エレベーターに乗る。
槙野さんが26のボタンを押すのを見た。
なにここ何階建て?高層マンションてやつ?
高いんだろうなー。俺のワンルームとは大違いだ。
またちらっと槙野さんを見ると、がっちり目が合った。
「なんだ?さっきからちらちら俺見て。なんか変か?」
変だなんてとんでもない!!
「言っていい?」
「あ?言えよ」
「槙野さんが前髪下ろしてるの新鮮で、見惚れてたの。超エロいから」
「な、エロってお前」
槙野さんが眉をひそめて絶句した。遅れてほんのり頬が赤らむ。
なーにーそーれー!!
美しくてエロい上に更に色気が増すとかわけわかんないんですけど!
もう無理。アタシ我慢できない。
俺は槙野さんに近寄るとぎゅっと抱きしめた。
「か、かんざ」
硬直した槙野さんからほんのりと甘い匂いがする。香水とか使わなそうだから、トリートメントかな?
俺の腕の中にぎりぎり収まる槙野さん。華奢な体は案外しなやかで、抱き心地がいい。
槙野さんが身じろぎもしないのをいいことに、髪に頬を擦りつけるようにして、首筋に軽く唇を触れてみた。
滑らかで薄い皮膚の感触に我を忘れそうになる。
舐めたい。
吸い付きたい。
でもキスマークなんかつけたらきっと槙野さんに殺される。
ちょっとだけ。ちょっとだけ。ね?いいでしょ槙野さん?
目を見たらたぶん俺は負ける。
だから槙野さんの目は見ないで。
そっと唇を重ねた。
途端に止まっていた時間が流れ始めたように、槙野さんが微かに動いた。
「馬っっ鹿野郎!!」
次の瞬間、怒りの掌底が俺の顎を貫いた。
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