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4- しつけは飼い主の責任です(2)

「正座だ正座!そこに正座してろ!」 俺は怒りながらフローリングを指した。 神崎が素直に膝をついて正座する。 「反省してます。すみません」 鈴が不思議そうに、体を小さくして床に座っている男の匂いを嗅いでいる。 人見知りな鈴にしては珍しい反応だが、今の俺にはそんなことはどうでもいい。 「どういう了見だ、勝手にキスなんぞしやがって」 「ほんとすみません。ちょっと理性がとんじゃって」 「簡単に理性をとばすな!お前本気で犬か?!」 信じられない。 エレベーターの中でキスするとか何考えてるんだ。 監視カメラもあるんだぞ? というより規約違反だろ。唇は。 「鈴、その不埒な輩から離れなさい」 神崎の匂いを嗅いでいた鈴が、膝に乗りそうになったので抱き上げる。 「んなお」 ちょっと不満そうに鈴が腕の中でもがく。 頭を撫でて宥めてやるが、直に鈴は腕から飛び降りてキャットタワーに上っていった。 てっぺんから俺たちを見下ろしている。 「とにかく!次はないからな。気を付けろよ」 「はい。ごめんなさい」 神崎が深々と頭を下げる。 普段の明るい雰囲気とは一変して、本気で反省しているように見える。 反省してるなら……まあ、いいか。 「紅茶と珈琲どっちがいい」 「え、あ、紅茶いただきます」 「分かった。……はあ、楽にしろよ」 神妙な顔で神崎が膝を崩すと、再び鈴が匂いを嗅ぎに行く。 よほど気になるらしい。 「手を洗うなら、廊下出て左側二つ目だ」 「はいっ」 神崎が手を洗いに行ったので、俺はキッチンで手を洗い、紅茶を淹れる湯を沸かす。 電気ケトルで湯が沸くまで、しばし冷蔵庫にもたれて腕組みして考える。 前髪切るかな……。 出勤時と雰囲気変わるから気分転換になって気に入ってたんだけど、いい加減伸びてきたしな……。 神崎が戻ってきた。鈴を腕に抱いている。 「槙野さん、質問です!」 「なんだ」 「ハグはOKだったんでしょうか!」 「ん、まあ。でも外ではやるなよ」 神崎がぐっとガッツポーズをとってから再び訊く。 「おし!じゃあ、キスはどこまでなら許されますか?」 難しい質問だ。 俺だって鈴にキスするしな。キスっていうか匂いを嗅ぐ感じだが。 鈴だって俺の顔を舐めることもある。 「うーん……外でなければ……唇以外?でも性的なのはアウトだぞ」 「まじすか!じゃあさっきの首筋は?」 「駄目だ」 「どこならいいの?」 「頬とか……額?」 「了解っす!」 神崎はにっこり笑って敬礼した。 「ん」 笑顔が可愛かったのでくしゃりと頭を撫でてやる。 会社じゃできないけど、家でなら思う存分撫でられる。 今度は神崎が目を丸くして固まった。 ……何か悪いことしたか? と思ったら、神崎は鈴を床に下すと抱きついてきた。 神崎は俺より背が高いし体格も俺よりしっかりしてるから、包み込むように抱きしめられる。 体温と、少し速い鼓動が伝わってくる。 「ハグはいいんでしょ?」 耳元で神崎が囁く。 いいけど……いいって言ったけど……。 ケトルがぽこぽこと音を立て始めた。 「おい、終わりだ。湯が沸いた」 軽く神崎の胸を押すと、神崎は渋々抱擁を解いた。 ティーポットに茶葉を入れて、湯を注ぐ。 「ソファに座ってろ」 「え、紅茶はいるまでもっかいハグしたい」 「座ってろ」 有無を言わせずソファを指すと、神崎は不満そうに唇を尖らせた。 「……はい」

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