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4- しつけは飼い主の責任です(5)
しばらく本を読んで、トイレに行って戻ると、神崎が目を覚ましていた。
「あ、起こしたか。すまん」
「いえ。……槙野さんの傍は居心地が良くて、なんだか眠くなっちゃうんですよね」
神崎が目をこすりながら笑う。
「それにしてもよく寝てたな」
「あはは」
「いびきかいてたぞ」
「え、ほんとに?」
神崎が目を丸くする。
「嘘だ」
「ひどいー」
ソファの上をずりずり這って、俺の膝に頭を乗せる。
何やってるんだ。気持ちよさそうに。
「うーん。あ、これ俺まだ寝れますね」
「寝るな。もう7時だぞ」
「あー。道理で腹減ってると思った。槙野さん夕飯どうします?」
膝の上から丸い目で見上げてくる。
「腹は減ってない。要らないかな」
そう答えると、神崎はむくれた。
「もー。一口でいいから食べません?俺作りますから」
「神崎お前、料理できるのか?」
ちょっと意外だ。なんとなく見た目で家事は苦手そうだと思っていた。
「家庭の事情で多少。簡単なものしか作れませんけど。冷蔵庫の中見てもいいですか?」
「いいけど。何もないぞ?」
家主立ち合いの元、という謎の名目で立ち上がらされた俺は、背中から神崎に抱かれながら冷蔵庫を開けた。
「まあ綺麗。飲み物と調味料しか入ってないじゃないですか」
「だから何もないと。おい、匂いをかぐな」
「だって槙野さん暖かい匂いするんだもん」
肩口に鼻を埋められてこそばゆい。
「近くにスーパーありましたよね。買い物行きましょう買い物」
ぱっと離れた神崎はバッグを掴むと俺の手を引く。
「え、おい、待て鍵取ってくるから」
カウンターに置いていた鍵を取ると、神崎に手を引かれるまま外に出た。
買い物はあっという間だった。
神崎が手際よく品定めしながらカゴに食材を入れていく。
「あっ、カレイ!俺カレイ食べたい!ねえ槙野さん、カレイの煮つけどうですか?」
嬉々として神崎が俺を鮮魚コーナーへ引っ張って行く。
「神崎が作るなら、ちょっとだけ食べてみたいかな」
「やった!俺頑張る!」
神崎が喜々としてカレイを選ぶ。
白米は電子レンジで加熱して食べられるパックを一つカゴに入れ、買い物終了だ。
家に戻ってくると、神崎はバッグからエプロンを取り出した。
生なりのそれをぴしっと巻き、腰の後ろで紐を結ぶと腕まくりをした。
なかなか様になっている。
「やりますよ」
こっちを向いてにやっと笑う。
「エプロン持ってきたのか。最初から料理するつもりだったのか?」
俺は生魚の匂いを嗅ぎ付けた鈴を抱き止めながらソファに腰を下ろした。
「槙野さんにいいとこ見せようと思って。すぐ終わるんで待っててくださいね」
◇ ◇ ◇
しばし鈴と遊んでいると、煮物のいい匂いがしてきた。
神崎の言った「すぐ終わる」は伊達ではなかったようだ。
野菜を刻む包丁の音が小気味よく聞こえる。
鈴が遊びに飽きた頃、神崎がテーブルに皿を並べ始めた。
「槙野さーん。お箸どこですか?」
「ああ、今出す」
箸を二膳と、自分用に小皿を出した。
献立は、カレイの煮つけとほうれん草のお浸し、レンコンのきんぴらに味噌汁と白米だった。
「神崎、やるな」
俺は思わず神崎を褒めた。
「えへへ。これくらいは朝飯前です。夕飯ですけど。どうぞ、槙野さん食べれるだけ取っちゃってください。おかわりもまだちょっとあるんで遠慮はいらないです」
「じゃあ、少しいただこうか」
せっかくなので、味噌汁以外を少しずつ皿に盛り付けた。
「そうそう。バランスよく食べてくださいね」
神崎が母親のようなことを言う。
「いただきます」
二人とも食卓につくと、手を合わせて食べ始めた。
カレイの煮つけに味が良くしみていて美味い。きんぴらも程よくぴりりと唐辛子が効いている。
「美味いな」
思わず俺はぽつりと呟いた。
神崎がすかさず拾って笑顔になる。
「ほんとに?ありがとうございます!」
「家でもよく作るのか?」
「基本自炊です。金がないので。子供のころから料理の手伝いをしてたので、なんとなく覚えちゃったんですよね」
「ふうん。えらいな」
「いや、はは」
神崎は照れたように笑った。
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