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4- しつけは飼い主の責任です(8)SIDE:神崎
あろ~は~!!ゼロ姉さんよん!
ちょっと!!聞きなさいよ!槙野さんといちゃいちゃしちゃったじゃないのよ!
しかも抱きたいって!抱きたいって言っちゃったわ!
まあ、スルーされちゃったけど!やんなっちゃう!
ふう……。
好きっていっぱい言えたし、満足。
全然嫌がられなかったし!
「何にやにやしてるんだよ。鈴が見てるぞ。鈴に変なもの見せるな」
俺が毛布を広げながらさっきの槙野さんとの一連の絡みを思い出していると、槙野さんに気味悪がられた。
「単なる笑顔じゃないですかぁ。いやー、今日はいっぱい槙野さんと仲良くできたなあと思ったら嬉しくなっちゃって。楽しかったですね」
カウンターのスツールに腰を掛けた槙野さんは、頬杖をついて俺から顔を背けた。
「……」
あれ、槙野さん黙っちゃった。
もしかして、楽しくなかった?無理させちゃった?そういえば、泊まるのだって俺の策略だったし。
「槙野さん?」
名前を呼んで、恐る恐る槙野さんの前に行って膝立ちになった。
そっぽを向いた槙野さんの膝に腕をつく。
「……かったよ」
「?」
上手く聞きとれなくて、もう一度言って、の意味で槙野さんの膝を軽くつついた。
槙野さんはため息をついて俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「ああもう、二度言わせるなよ。……楽しかった」
俺が満面の笑みを浮かべると、槙野さんにも少し感染 った。
◇ ◇ ◇
「おやすみ」
「おやすみなさい」
俺は、暗くなったリビングで一人うとうとしていた。
ソファに横になって、半分以上夢の中にいた。
まあ、起きている部分も、槙野さんの部屋にいるというだけで夢を見ているみたいなものなんだけど。
たんたんたんと鈴ちゃんがキャットタワーから下りる音がして、俺の体に乗ってきた。そういえば、鈴ちゃんは後ろ足が悪いみたいだ。普段はそうでもないけど、今みたいに高いところから飛び降りる時に足を引きずってる。うずくまる時も、ぱたんと倒れこむようにするし。
「……ぅうん……鈴ちゃん……重いってば……」
夢うつつに鈴ちゃんの頭を撫でて、体から抱き下ろす。
「んな」
不満そうな声。
きしっとソファがきしむ音がして、頬に温かい何かが触れた。
肉球か?鈴ちゃんに舐められたか?
「鈴ちゃんてば……」
仕方ないなと胸元の何かを抱くと、目元のちょうどほくろのある辺りに、また温かい何かが触れた。
それは、ちゅっ、と小さく音を立てて離れた。腕の中からも逃げていく。
数秒おいて、俺は完全に覚醒した。
目を開くと、槙野さんが足早に部屋を出ていくところだった。
「待って待って待ってお願い待って槙野さん」
俺は駆け寄って膝でフローリングの上を滑り込み、槙野さんの足にすがりついた。
「今、今の槙野さん?ちゅーした?」
「ああ?夢でも見てたんじゃないのか」
少なくとも槙野さんの目は俺を見下ろしながら笑っている。
「した!しましたよね?ね、もう一回」
「何言ってるんだ。さっさと寝ろ。俺は鈴を迎えに来ただけだ」
結局槙野さんはそのまま鈴ちゃんを連れて寝室へ行ってしまった。
俺はもう一度ソファに体を横たえる。
夕方にもうたた寝しちゃったけど、このソファはちょうどよくふかふかで寝心地がいい。
これで毛布をかけて温まったら寝ちゃいそうなものだけど、俺は目がぱっちり冴えてしばらく眠れなかった。
だって!だって!
槙野さんが俺にキスしてくれたんだよ?
寝ぼけてて感触が良く分からなかったのが悔やまれる。
キスが落ちたのは、右の頬と、左目の下のほくろのとこ。
キスの感触が消えないように、そっとそっと指先で触れてみる。なんとなくむずむずする。
まだちょっと温かいような気がする。
顔が自然に緩んでしまって眠るどころじゃない。
俺がまともにキスしたのは槙野さんの手首くらい。
エレベータの中で唇にキスしたのはめちゃくちゃ怒られたからノーカンかな……。
それに比べて槙野さんは!頬と目元!
これはもう俺、愛されてるんじゃない?
勘違いしても仕方がないんじゃない?
やったー!大好き、槙野さん!好き!
俺はそのまま夜中まで悶えていて、眠るどころじゃなかった……。
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