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5- 公園デビュー!(4)
「おはよーございますー」
洗面を済ませ、着替えたところで神崎が訪ねてきた。
さっき叱ったからか?心持ち声のトーンを抑えている。
「もう俺も鈴も起きたから、いつも通りで構わないぞ」
「えへ。さっきはすみません。早く槙野さんに会いたくて、時間のこと忘れてました」
いつも通り明るい金茶の毛先を散らせたヘアスタイルを指先で弄りながら、ちろりと赤い舌を出した。
「あっ、鈴ちゃん。鈴ちゃんもごめんなー。うるさかったよね」
キャットタワーのてっぺんに陣取った鈴を見つけると、神崎は寄っていって顎をくすぐった。
「ぐるるなん」
つんと気取っていた鈴があっという間に陥落する。
紅茶を淹れながらふと目をそらした隙に、鈴は神崎の腕の中に納まって恍惚の表情で撫でられるままになっていた。
薄々思っていたんだが、どうも鈴は神崎に甘すぎないか?
初対面の時も、鈴は初めて会う人間には警戒心を剥き出しにするのだが、神崎にはそんなこともなく、自分から寄って行っていた。
神崎が初めてうちに泊まった時も、俺が迎えにいかなかったら鈴は神崎と一緒に寝そうな雰囲気だった。
「ま、槙野さん。やっぱり怒ってます?」
神崎が俺を見て、恐る恐る聞いてきた。
「いや?なんでだ?」
「眉間にめっちゃしわ寄ってます」
いつかのように、神崎が手を伸ばして俺に触れた。
温かい指先が眉間に触れて、融けるように力が抜けるのを感じ、初めて眉根を寄せていたことに気づいた。
「……神崎に嫉妬してた」
温めたカップにティーポットから紅茶を注ぎながら、つい言ってしまった。
「え、俺に?なんで」
「鈴がお前にはやたらと懐くから」
我ながら子供じみた理由だが、俺の鈴への溺愛ぶりを知っている神崎は笑わなかった。
「あー、俺、昔から動物に懐かれやすいんですよ。良い匂いでもしてるんですかね。……ていうか俺的には鈴ちゃんに対して嫉妬してほしい」
「鈴に?」
「俺だって槙野さんのペットなんですよ?俺のわんこ取るなーって」
「馬鹿か」
神崎の髪を軽く撫でると、神崎はへらっと幸せそうに笑った。
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