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5- 公園デビュー!(5)

昼飯は例によって神崎が手早く作ってくれた。 今日はしめじと豚肉の和風パスタだった。 上に散らした刻み大葉がアクセントになって、相変わらず美味い。 食後、二人で後片付けをしながら、なんとなく昨日の橘の言葉を思い出した。 俺が最近よく笑うようになったという、アレだ。 ついでにそれから、俺の気持ちについて。 皿を食器棚にしまいながらさりげなく神崎の横顔を見ると、機嫌良さそうな顔をしている。 よし、試しに笑わせてみるか。 神崎が喜びそうなこと……。 「今日の飯も美味かった。ありがとな」 「どういたしましてです」 神崎はニコッと軽く笑みを浮かべた。 「俺、大葉好きなんだ。さっきの豚肉と合ってて美味かった」 そう言うと、神崎の笑みが大きくなった。 つられて俺の頬と目元の筋肉が少し緩んだのを自覚する。 「俺も大葉好き!油ものに合わせるとめっちゃ美味いですよね!」 「あー、餃子とかな」 「いいですねえ」 確信した。俺が会社で笑顔なのであれば、それは間違いなく神崎のせいだ。 要するに、どうしようもない。 まあいい、仕方ない。 断り続けていれば、いずれ女性陣も諦めてくれるだろう。 ……ついでに、神崎をもう少し笑顔にしてやろうかな。 ふと悪戯心が頭をもたげた。 片付け終わってなんとなくソファに移動する。 間に昼寝中の鈴をはさんで二人座った。 「なぁ、神崎」 「はい?」 微かに神崎が首を傾ける。 「来週あたり、遠出しないか」 俺がそう言うと、みるみるうちに神崎の大きな目が丸くなっていく。 「え」 「気が進まないなら別にいいが」 「いやいやいやいや行くし!」 神崎が俺の足元に飛んで来て膝立ちで抱きついてくる。 「俺も槙野さんと遠出したくて、ご褒美もらおうと思って今週ずっと頑張ってたんだもん!」 なにこいつ……カワイイ。 本気で言ってんのか。ご褒美のために仕事頑張ってたとかって。 俺の見積もりが甘かったかなってくらい、確かに進捗はかなり良かったけど。 ぶんぶん振ってる尻尾が見えそうなほどハイテンションな神崎。 その笑顔はなんかもう……直視できない。 だらしなく口元が緩みそうになって、俺は慌てて片手で口許を覆って横を向いた。 俺としたことが、なんてザマだ。 「槙野さん?」 急にそっぽを向いた俺をいぶかしんで、神崎が俺の腕を引いてくる。 やめろ。今ちょっと恥ずかしいくらいにやついてるから。 「それは……奇遇だな」 「ね!槙野さんが俺と同じこと考えてたの、すげぇ嬉しい!」 ああ、ああ。 もうそれ以上カワイク笑うなってば。顔が熱くなってきた。 「もうこれデートですよね!!」 「いや、遠出だ」 「じゃあ、遠出(デート)で!」 神崎は俺の膝に抱きつくように頬を乗せて、幸せそうにじたばたする。 鈴が目を覚まして、迷惑そうに去っていった。 すまん、鈴。俺には()められないんだ。 思っていた以上に神崎が嬉しそうで、カワイクて、俺の頭がどうにかなりそうなんだ。

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