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5- 公園デビュー!(7)
『お迎えに行きたいんですけど、槙野さんち側は道が込み入ってて入りづらいんで、反対の西口に来てもらってもいいですか?駅前のロータリーで待ってます』
遠出当日、待ち合わせ直前にこんなメッセージが飛んできた。
さて、出掛けるか。
「行ってくるよ鈴。夜には戻るからな」
ケージの中で丸くなっていた鈴のおでこを一撫でして、俺は外に出た。
西口に行くには、駅の改札前通路を抜けていけばいい。
ここはよくスイーツ店が期間限定ショップを出していて、賑わっている。
今日はワッフル屋が来ていて、行列ができていた。
不意に並んでいる女子大生の会話が耳に飛び込んできた。
「私さっきの人みたいな彼氏ほしいなー」
「さっきのって?」
「黄色い車に寄りかかってた、せー高い男の人!理想的すぎるんだけど!」
「あー、携帯見てた茶髪のお兄さん?」
「そう!可愛カッコいいっていうか、鬼カッコいいのに母性本能くすぐられる感じー!スタイルめっちゃ良かったし」
「服もセンスよかったよね。グレーのブルゾンに黒シャツ似合ってた」
「まじそれ!センス大事!ユータもさあ、顔は良いんだけど私服があり得ないんだよねー」
「うわまじで?残念だねー」
なんとも賑やかなことだ。
西口のロータリーに出て、辺りをぐるりと見渡すとすぐに神崎が見つかった。
背が高いのはこういう時便利なんだな。
……あ、グレーのブルゾンに黒シャツ。さっきの話題の主はお前かよ!
ほぼ同時くらいに神崎も俺を見つけて、顔の横で手を広げて見せている。
「……神崎らしい車だな」
神崎が寄りかかっていたのは、パステルイエローの小さな車。
ルーフとバンパーだけホワイトで、なんだか……。
「可愛いでしょ?たまひよ号です」
「そうだな、殼に入ったひよこっぽいな」
神崎は助手席のドアを開けると、乗るように俺を促した。
「どぞ」
「ん」
神崎も車の前を回り込んできて、運転席に乗り込んだ。
エンジンをかけて、走り出す。
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