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6- 縄張り争い(1)SIDE:神崎

出社すると、職場が何だかざわついていた。 なんだろ? どこか浮足立っている感じもする。 俺は背後の席まで椅子を下げると最近仲良くなった小牧絵里に話しかけた。 「ねえねえ小牧ちゃん、今日って何かあったの?ざわざわしてるけど」 「ん?あ、零ちゃん知らないんだ。西嶋さんが復帰したんだよ」 「西嶋さん?」 「ほら、あっち」 小牧ちゃんが指差す方を見ると、見知らぬ男が数人と話している。 「美人っしょ西嶋さん」 小牧ちゃんの言うとおり、日本人離れした目鼻立ちのうえ、アイスブルーの瞳がきらきら輝いていて、プラチナブロンドの長髪を左耳の下で束ねて前に流している。手足の長いすらっとした体躯は思わず見とれそうだ。 会社員と言うよりモデルって言われた方がしっくりくる。 いや、槙野さんの方がずっと美しいけど。 「お母さんがスウェーデン人なんだってー。いーよねーハーフ」 「あ、そっか、俺の前任の人かぁ」 「そうそう」 彼が倒れてくれたおかげで俺が槙野さんの下につくことができたわけだ。お礼でも言っておこうか……いや、それじゃ単なる嫌みだな。やめとこ。 そうこうしているうちに、槙野さんが出勤してきた。 「おはようございます!」 俺は最高の笑顔で挨拶する。 「おはよう」 返す槙野さんは相変わらず不愛想でそっけない。ま、そこもいいんだけど! 「あ、槙野さん、落ちてたテストサーバ復旧しましたよ」 「そうか。良かった。それほど遅れはなさそうだな」 槙野さんはいつも通りバッグを置いて席につくかと思いきや……西嶋さんがこっちにやって来た。 俺たちが話し終わるや否や、西嶋さんはなんと槙野さんの肩を抱いた。 「槙野!ごめんな肝心な時に休んじゃって。あとお見舞いさんきゅ」 なに!なんなのこの人! なんでそんな槙野さんに馴れ馴れしいの! 「もう平気なのか?」 槙野さんが西嶋さんの顔を見る。 「元気元気」 抱いたままの槙野さんの肩をぽんぽんたたく。 ちょっと!槙野さんもなんでそんなスキンシップを許すの? 「せっかく槙野と一緒に仕事できると思ったのにさぁ。ついてないよ」 「まあな。でも西嶋がいろいろきれいにまとめといてくれてたお陰で、こっちは支障なかった。ありがとうな」 え!なに!なにこの感じ!仲良いの? 美人同士でめっちゃ絵になってるけど、そういう問題じゃない。 ちょっと、西嶋テメエさっさと槙野さんから離れろよ! 「お話し中すみません、槙野さん。資料のレビューをお願いしたいんですけどいいですか?」 俺はわざと二人の会話に無理やり割り込んでやった。 「ああ。スケジュールが空いてればいつでもいい」 「じゃあ今、今すぐお願いします」 西嶋が軽く俺を睨んだのを感じた。敵だ。あいつは敵だ。敵認定。 ◇ ◇ ◇ レビューを終えて、一息ついた槙野さんに思わず詰め寄る。 会議室入口の窓からはちょうど死角になる位置だから、多少距離が近くても問題ない。 「槙野さん、西嶋さんと仲がいいんですか?」 握りしめたシャープペンシルをへし折りそうなくらい手に力が入っているのを自覚する。 「そうだな。大学の時から一緒だからな。ずっと別の部署だったんだが、今回初めて同じ部署に異動してきて、すぐ倒れやがった」 まったくあいつは、と槙野さんが苦笑する。 俺が見たことない表情してる。 「いきなり吐血して、青白い顔して病院行ってくるっつってそのまま入院だよ。びっくりした」 ほんとに仲、良さそうだ……。 いや、こんなんで負けるわけにいかない。 だって俺は槙野さんのペットなんだから。 ……あれ?槙野さんは俺のご主人様だけど、俺には槙野さんを独占する権利、ないんだ……。

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