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6- 縄張り争い(2)SIDE:神崎

自席に戻って、ぶすぶす燻りながら仕事をする。 体の中で嫉妬の炎に火がついて、口から真っ黒い煙が出そうだ。 「あー、神崎くん?悪いんだけどさ、手、貸してくれない?」 「はい?」 ふらっと西嶋が槙野さんの近くに来たものだから、てっきりまた槙野さんにちょっかいを出しに来たものと思って警戒していたら、なんと俺に声をかけてきた。 「俺の荷物、サーバルームにしまわれちゃってさ。ちょっと出すの手伝ってくれない?」 「は?」 「いいじゃん。若いんだから力はあるだろ?はい立って立って」 ムカつく。なんだこれ、喧嘩売られてるのか? あんたの代わりを務める頭もあるっつの。 否応なく立たされて、サーバルームに拉致られた。 サーバルームでは、基盤の木下さんがサーバのメンテナンス中だった。 冷却ファンの駆動音の中、巨体を丸めて小さなキーボードを器用に操っている。 集中しているその背中に西嶋がのんびりと声をかけた。 「あれー木下くん、基盤グループの週次ミーティング始まってるよー」 「あっ、やばっ。ありがとうございます」 慌てて画面を閉じて部屋を出ていく木下を、ひらひらと手を振って見送っている。 ぱたんと扉が閉まって部屋の中に二人きりになったとたん、西嶋は豹変した。 西嶋は俺の肩をひっ掴んでぐいとキャビネットに押し付けると、胸倉を掴んで押し殺した声でこう言った。 「調子に乗るなよこの犬ころが。これ以上目の前うろちょろするようなら保健所送りにするからな」 やばい。こいつ腹黒い。どす黒い。 「西嶋さんにそんなことを言われる筋合いないんですけど」 「ああ?!槙野の周りへばりついて鬱陶しいんだよ」 さっきまでにこやかに微笑んでいた目元が、神経質にひくついている。 顔が綺麗なだけに、凄みがある。 西嶋が念を押す。 「槙野に構うな。いいな」 いいわけない。そんなこと言われて引っ込む俺じゃない。 俺は西嶋の手を振り払うと睨み返した。 「やです。西嶋さんは槙野さんとどういう関係なんですか?」 「なんでもいいだろ」 めんどくさそうに軽く肩をすくめる。腹立つな、その仕草。 「よくないです。俺は槙野さんが好きなんです。邪魔するならそれ相応の理由をください」 「……槙野に目をつけたのは俺が先だ」 「そういうことですか。じゃあ、嫌です。お断りします」 火花が散るかと思うくらい睨み合って、目をそらした。 コンコンとノックの音がしてそちらを見ると、よりによって槙野さんがドアを開けて顔をのぞかせていた。 「取り込み中か?」 「いや、もう用は済んだ。なんだい槙野?」 「あ、ちょっとっ」 話は終わってないとむっとして俺は西嶋を睨んだが、俺の事なんかまったく気にしていない様子だ。 「西嶋に訊きたいことがいくつかあるんだが、来てもらえるか?」 「ああもちろん。……神崎くん、さっきの段ボール箱は要らないから処分してもらえる?」 「は?……はい」 渋々俺が頷くと、西嶋は槙野さんからは見えない角度で、にやりと笑ってよこした。 あぁあぁ、ム・カ・つ・く!

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