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6- 縄張り争い(3)SIDE:神崎
「はあぁー……」
俺は烏龍茶を前に膝を抱えて深々と溜め息をついた。
ここは会社の近くにある飲み屋で、今はその……まあ……なんというか、いわゆる西嶋の退院祝いの飲み会中だ。
俺は全っ然!祝いたくないんだけど。
西嶋は当然槙野さんにべったりで、俺が近寄ろうとすると睨んで牽制してくる。
「どうしたんですかー?神崎さん」
「高橋くん……」
俺の心のオアシス高橋くんがジョッキを片手にやってきた。
いや、今日だけはオアシスじゃない。そもそもこの飲み会、有志の集まりなのに「西嶋さんと仲良さそうですよね」という勘違いも甚だしい理由で誘ってくれた張本人だから。
退院祝いとかさぁ、断りにくいやつじゃん……。
「槙野さんと西嶋さんて仲いいんだね……」
「あー。みたいですよね。槙野さんが珍しく笑ってるし。西嶋さんも楽しそうだし。てゆかどうしたんですか神崎さん。ため息なんかついちゃって」
「あはは。そうだねー」
俺は棒読みで笑ってみせる。
「彼女とうまくいってないんですか?」
なんでそうなる!……いや、あながち間違いでもないか。
「高橋くんさ、彼女が他の男と会ってたとして、どこまでなら許せる?」
「え?突然ですね……うーん……キス以上は浮気ですかねぇ」
予想外の発言に俺は目を剥いた。
「まじで?寛容すぎない高橋くん?!手を握ったりとか抱き合ったりとかしてても許しちゃうの?!」
「まあ……雰囲気次第ですけど、それくらいならよくないですか?」
「よくない!俺は絶対やだよ?!」
冗談でも、槙野さんと西嶋が抱き合ったりなんかしてたら、俺、憤死する!
そうでなくても西嶋に掴みかかって殴るくらいのことはしちゃうと思う。
さすが高橋くん。これくらい寛大じゃないと癒しのオーラは出ないんだな。年下とは思えない落ち着きだ。
「何喋ってんのー?恋バナ?混ぜてよぉ」
小牧ちゃんが何を聞きつけたのか寄ってきた。
ほっぺたを赤くして、わりと酔ってるみたいだ。
「恋バナとはちょっと違うけど……じゃあ小牧ちゃんの意見を聞かせてよ」
「いいよぉ。なに?」
「小牧ちゃんの彼氏が他の女の子と会ってたとして、どこまでなら許せる?ちなみに俺は手を握ったりとか、必要以上の接触があった時点でアウト!」
高橋くんが続ける。
「俺は、キス以上はアウトです」
ここで、なぜか小牧ちゃんが脱力して寄りかかってきた。
「もしかして高橋くんて彼女いんの?」
急にどうした、小牧ちゃん。
「え、あ、はい。学生の時から付き合ってる彼女がいます」
「えー……やだぁもぉ。こっそり狙ってたのにー!零ちゃん慰めてー!」
「はいはい」
小牧ちゃんが腕にすがりついてきたから、軽く頭をぽんぽんしてあげた。
「小牧ちゃん、年下が好きなの?」
「うん。年下で可愛い男の子。零ちゃんがもっとずっとちっちゃかったらなー!……零ちゃんお願い、30センチくらい縮んで?」
「うーん、そこまで大幅に縮むのはちょっと無理だよー」
もう一回小牧ちゃんの頭をぽんぽんしてあげていると、ふと視線を感じた。
顔をあげると、すいと槙野さんが目をそらした。
なんだかつまらなそうに頬杖をついている。
お!西嶋いないじゃん!
これはチャンス……と思ったら外から戻ってきた。トイレに行ってただけらしい。
うん、でも槙野さんが俺のこと見てくれてただけで嬉しい。
あれ?西嶋が戻ってきてもつまらなそうな顔は直らない。
あ、もしかして。
もしかしてだけど。
俺が小牧ちゃんとくっついてるから、嫉妬、してる?
だってあの顔は、鈴ちゃんのことで俺に嫉妬してた時と同じ顔だもん。
うふふふふふふ。やば、嬉しい。
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