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6- 縄張り争い(6)SIDE:神崎

「お邪魔しますー」 声をかけながら玄関を開けると、槙野さんが鈴ちゃんを抱いて立っていた。 「早くドア閉めろ」 槙野さんの言葉に、慌てて俺は玄関のドアを閉めた。 閉めると同時に、鈴ちゃんが暴れて槙野さんの腕の中から飛び出す。 「こら、鈴」 鈴ちゃんは弾丸のように玄関まで走ってくると、そのままの勢いで横の棚に飛び乗った。 器用に上段まで駆け上がると、棚の中の物を蹴落として澄ました顔で香箱を組む。 「まったく……もう。どうしたんだ、鈴」 蹴落とされた靴やら小物やらを拾い上げると、槙野さんは困ったようにため息をついた。 「反抗期ですか?」 「さあ……昨日俺が家に帰ってからずっと、こうなんだ。昨晩もベッドに来ないでソファで一人で寝たし。どうやら俺に怒ってるか、嫌いになったらしいな」 槙野さんが鈴ちゃんから俺へ視線を移す。途端に訝しげな顔をされた。 「神崎もどうしたんだ、その顔色。目の下に隈できてるぞ」 あれ。顔色はよくなったと思ったんだけど。ばれちゃった……。 うん。ちょっと嬉しい。槙野さん、まだちゃんと俺のこと見てくれてるんだ。 「いやーそのー……昨日の飲み会で帰りが遅くなっちゃって」 「よっぽどだな。まあ、ゆっくりしていけよ」 リビングに通してもらって、いつものようにソファに座る。 槙野さんは紅茶を淹れてくれてる。 涙が出るほどいつもの空気。これがずっと続くと思ってたのに。 !ほんとに涙出てる!泣いてるってば!おい零! 俺は槙野さんに気づかれないように服の袖で涙をぬぐった。 ティーセットをテーブルに置く槙野さん。 コポコポとティーカップに紅茶が注がれていくのをぼんやり眺めていると、玄関から鈴ちゃんが戻ってきた。 尻尾をぴんと立ててしゃなりしゃなりと気取って歩いてくる。 俺の前まで来ると、ひょいと膝に乗ってきた。 反射的に背中を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めて膝の上で丸くなった。 「はぁ……なんだよ鈴。当てつけか?」 槙野さんが寂しそうにため息をつく。 鈴ちゃんの温もりに少し背中を押してもらって、俺は本題を切り出した。 「あの、槙野さん」 「ん?」 「その、西嶋……さんとは、どういう関係なんですか?」 「前にも話さなかったか?学生時代からの友人だよ」 顔色を変えずに槙野さんは答えて、ティーカップを傾ける。 「友人?ほんとに?」 「ああ。どうしたんだ急に」 「昨日の夜、」 喉に何かがつかえたように息が苦しい。 夜、の後が続けられなくて、一度無理やり深呼吸した。 「昨日の夜、槙野さん、西嶋さんにキスしてた」 「……見てたのか」 槙野さんがカップを置いて、俺を見た。 なにか考え込むように、目を細めている。 「ほんとに、」 まだ息が苦しくて、言葉が切れた。 鈴ちゃん助けて。俺にもっと勇気をちょうだい。 もう今にも涙腺が決壊しそうなんだよ。 「ほんとにただの友達なの?」

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