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6-定時連絡

静かな日曜日の夕方は、料理タイムです。 好きな音楽を聞きながら、夕飯と、明日の弁当の下準備をしています。 献立ですか?ええと、今晩はグラタンで、残ったらコロッケにしてお弁当にいれる予定です。後は副菜をちょこちょこと。 まずはグラタンの下ごしらえをしましょうか。 玉ねぎと鶏肉を適当に切って……。 『ジリリリリ』 はぁ?!BGMの音量が落ちたかと思ったら、電話です。 今ちょっと鶏肉切ってるんで手がべとべとなんですけど?! このタイミングの悪さはゼロですね。 ……ああ、やっぱり。無視しましょう。 『ジリリリリ』 ふう、鶏肉はできました。 玉ねぎはみじん切りに……。 『ジリリリリ』 諦めの悪いやつですね。せっかく好きな曲がかかってるのに聞こえやしない。 はあ。……出ますか。スピーカーにしておけば料理もできますし。 「はい」 『ゆっきー!助けて!』 「はい?」 『イカの捌き方教えて!イカ飯作りたいの!』 「なんでイカ捌けないのにイカ飯作ろうと思ったんですか」 『槙野さんが、』 「ああもういいです。解りました。……イカくらい捌けるでしょう?昔夕飯にイカの煮物作ってたはずですけど」 『うー、イカは気持ち悪くて触れなくて、料理当番サボってた』 「自業自得ですね。さよなら」 『待って待ってゆきりんお願い!ほっとくと平気で栄養バーだけで一週間生きる槙野さんが、まともなご飯食べる気になってるの!真っ当な食生活に戻すチャンスなんだよぉ』 ゼロが珍しく必死になっています。 ……イカ捌くくらいなら付き合いますか……。 「わかりました。イカはどこまで捌けたんですか?」 『捌くもなにも、まな板の上で生まれたままの姿でくつろいでるよぉ』 「じゃあまず胴体を外しましょうね。目と目の間の上辺りに頭と胴体がくっついてるところがあるんで、指突っ込んで剥がしてください」 『いきなりハード!ねえ、目ぽろって取れない?!大丈夫?!』 「馬鹿なこと言ってないでさっさとやりなさい」 『うぅ……これかな?……うひっ、は、剥がれたよぉ』 「はい。そしたらエンペラと足を両手で掴んで、ゆっくり胴体から内臓ごと引きずり出して」 『oh......Devil fish......』 なにやらゼロがショックを受けていますが、その間に私も玉ねぎを刻みます。 「胴体を外せたら、中に一本長い骨が入ってるんで、引き抜いてくださいね」 『ちょっと待って、内臓出したんだけどビジュアルショックで手の震えが止まらない』 「魚捌けるんだから、そんな内臓ごとき平気でしょう?」 『いやだって、頭の上に内臓って……ゆっきーの後ろから聞こえる下水道の音が、地獄感盛り上げてくるし。配管壊れた?』 「失礼な。下水管じゃなくてガテラルです。ゼロもたまにはメタル聴いたらどうですか?癒されますよ」 『うーん、今度ね……お、なんか透明の長いやつ取れた』 「はい、そしたら中を水洗いして胴体は完了です」 『やったー!』 「次はさっき引き抜いた足の方を処理しますよ」 『はぅ……』 「では、ワタと足を切り離してください」 『うっ……南無三!うひー!目が!強調されてえぐい!』 「ワタどうします?足とかと一緒に炒めると美味しいんですけど」 『や、やる』 「じゃあワタは切り開いて軽く塩をまぶしておいてください」 『ほい』 「足も塩をかけて親指でしごくようにしてください。吸盤が取れます」 『おー、取れる取れる』 「最後に頭です」 『え、捨てるんじゃないの?』 「食べますよ」 『冗談きついなゆっきーは』 「両目の所に包丁で切り込みを入れて、目を取り除いてください」 『ぎゃー!やっぱり目取れるんじゃん!』 「ぎゃーぎゃーうるせえですよ。早く取りなさい」 『うっ……うわぁ……ぽろって……取れた……』 「はい、目を取れたらひっくり返して足の付け根を見てください。硬いのがあるでしょう?これがくちばしです。反対側から指で押し出して取っちゃってください」 『取れました!』 「これですべて捌けました。後は炒めるなりお米詰めるなり好きにしてください」 『うおぉ達成感がすごい!ありがとゆっきー先生!』 「いえ、頑張ってくださいね」 ……イカを想像しながら作ったグラタンは、どこかシーフードな香りがしたのは秘密です……。

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