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7- アクシデント(2)
定時を過ぎて俺は会社を出た。
足取りが軽い?
別に神崎が家で待ってるからじゃない。予定よりも早く仕事が片付いてすっきりしてるだけだ。
マンションに着き、エントランスで部屋番号を押す。
「はいはーい」
能天気な声が聞こえてきた。
「俺だ」
「おいっす」
ロックが開いて中に入る。
エレベーターに乗り、部屋のドアを開けると、鈴と一緒に神崎が玄関先に座って待っていた。
「お帰りなさい!」
「ただいま」
鈴とついでに神崎の喉をくすぐってから部屋に上がる。
「鈴ちゃんすごいの!インターホン鳴る前から玄関でびしって待ってた!ご主人様帰ってくるのわかるんだねー。鈴ちゃんえらいなあ」
楽しそうに、鈴を抱き上げた神崎が後ろをついてくる。
「鈴は俺が帰ってくるといつも玄関で出迎えてくれるからな」
「えらい!鈴ちゃんできる子!」
神崎は鈴を撫でくりまわしている。
「んで、ご飯にする?お風呂にする?それとも……」
「ご飯で」
「んもう、最後まで聞いてくださいよー」
神崎が拗ねたので、足を止めてもう一度喉から顎にかけてくすぐってやった。
「……ん……やばい、これ癖になりそう。なんか気持ちいい」
小さな顎を少し上げて、うっとりした顔をする。
これは、踏み込んではいけない領域に足を入れてしまったらしい。
即くすぐるのをやめた。
「以後しないように心掛けるよ」
「いやー!やめないでー!ご褒美メニューに入れといてください」
「何だよご褒美メニューって」
「俺がいい子にしてた時のご褒美。頭なでなでとー、おでこかほっぺにキスとー、ハグ3分とー、喉くすぐり」
不穏な項目を指折り数えながらにまにましている。
「そんなの認めてないぞ」
「俺が決めました」
断固とした態度で言い切る神崎。
「まあ、それはともかく、ご飯できてますから。手を洗って着替えてきてくださいよ」
神崎は俺からバッグを取り上げると、洗面所へと背中を押した。
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