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7- アクシデント(3)
例によって夕飯は美味かった。
後片付けを終え、ソファでくつろぎながらそう言うと、神崎は嬉しそうに笑った。
「そろそろご褒美くださいよー」
腕を引っ張ってそんなおねだりをする。
「ええ?ご褒美なあ……何がいいんだ?」
「んー。じゃあハグがいい」
神崎がぱっと腕を広げる。
「ちょっと待て。3分だったな」
俺は立ち上がると、キッチンからタイマーを持ってきた。
ピ、ピ、ピ、と3分を設定してテーブルに置く。
計測開始。
「ちょっと槙野さん!情緒!」
信じられないという目で見る神崎。
「さっさとしないと終わるぞ」
んもー、と神崎は口を尖らせると、一気に距離を詰めて俺を膝の上に抱き上げた。
「なっ、神崎お前力あるな」
「ふふん。ただのわんこじゃないんですよ」
不敵に笑ったかと思うと、思い切り抱きついて俺の胸に頬を寄せた。
「んー。槙野さん温かい。いい匂いする」
神崎のぴんぴん跳ねた毛先が顎をくすぐる。
「俺はくすぐったいんだが」
「我慢してください。……うぁー。槙野さんの匂い好きすぎる。このまま添い寝してほしい」
「それは時間的に無理だな」
「うう。いつかきっと……!」
ここで、タイマーが時を刻み終えた。
ピ、バチっ
タイマーが鳴った瞬間に神崎が手を伸ばして叩くようにアラームを止めた。
「おい、3分終わりだろ」
「鳴ってません」
神崎は堂々と言い張る。
「終・わ・り・だ」
言い含めるようにすると、神崎は渋々俺を見上げてきた。
「じゃあアディショナルタイム。最初油断したから」
「そんなの計ってないぞ」
「俺が分かってますから大丈夫です」
「それ全然大丈夫じゃないだろ」
それでも、神崎の寂しそうな顔に俺はつい根負けした。
「じゃあ、少しだけな」
「ひゃっふぅ!」
神崎が歓声を上げたかと思うと、視界が猛スピードで流れた。
ばふっと背中がソファに押し付けられる。
どうやら神崎に押し倒されたらしい。
「おい!神崎!」
「第二ラウンドです」
「アディショナルタイムだろ!」
「このソファ広くて良いですよねー。いちゃいちゃし放題」
確かに、男二人が寝転がれるだけの深さはあるが、だからといって足を絡めても良いということではない。
「神崎、ハグ越えてないか」
「んーん」
神崎は相変わらずうっとりと俺の胸に顔を埋めている。
おい、そのツンとした鼻先を胸に擦り付けるのをやめろ。
ちょっと……。
「!槙野さん、乳首たっ」「終了!!!」
俺は無理やり神崎を引き剥がすと、ご褒美タイムを終わらせた。
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