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7- アクシデント(4)
楽しい時はいつもすぐに終わる。
品質チェックも済み、納品、初回稼働確認等々も完了して、打ち上げという名のどんちゃん騒ぎを最後に、プロジェクトは解散した……。
終わったら終わったで次の仕事が待っているわけで。
新規プロジェクトが立ち上げられたのだが。
何か妙な感じだ。目の前に神崎がいない。
もちろん、離れたところから声は聞こえるし、ちょっと頭を動かせば遠くに後姿も見える。
でも、目の前じゃない。笑顔も見えない。
俺の心情が多分に反映されているだろうが、心なしか神崎の声のトーンも下がり気味に聞こえる。
「なあ槙野」
「あ?」
代わりに目の前にいるのは西嶋だ。心安いのは確かだが、俺が求めているのはそうじゃない。
「顧客打ち合わせの時間だが、午前と午後空いてるけどどっちがいい?」
「好きにしろ」
「じゃあ昼前にしようかな。ずるずる延ばされたら面倒だしな。てか槙野愛想のなさに拍車がかかってないかい?」
「もともとだ」
「いやいや、もうちょっとマシだったよ。そんなんじゃ新人君達も怯えるだろ」
怖いよなあ?と、隣席の高橋と斜め向かいの吉原の、二人の新人にアイスブルーの瞳を向けにっこりと同意を求める。
前回のプロジェクトから引き続きいるのは高橋と早野のみ。
その他のメンバーはすべて変わった。神崎も含めて。
実は、俺の新プロジェクトと同時に企画されたプロジェクトがあり、そちらとメンバーの取り合いになった。
私情を挟むなら神崎を俺のプロジェクトに入れたかったのだが、前回、途中から参加したにもかかわらず上々の首尾を上げた実績が評価され、使ってみたいと、比較的規模の大きい向こうのプロジェクトに取られてしまった。
代わりに西嶋が復帰しているので、実質は戦力に問題はないのだが……。俺としては複雑な心境だ。
いや、仕事に私情を挟むのは良くない。そう。良くない。
「せっかくの初めての共同作業なんだからさぁ。槙野、仲良くやろうぜ」
「……」
「いや、無言で睨むのやめて?槙野。ほんと怖いから」
だから私情を挟むなと。
◇ ◇ ◇
できるだけ神崎のことを考えないようにしながら仕事をこなす。
神崎の笑顔に悶絶していた頃よりはまだましだが、若干生産性が下がっているのを感じる。
「あー、そう。高橋くんね、そこの変数の使い方ちょっと考え直してみようか」
西嶋が、高橋のPCを覗きながら、ペン先で画面を指して何やら教えている。
西嶋は人当たりもいいし面倒見もいい。新人にとっては理想の先輩だろう。
人当たりと言えば……ふと、西嶋の遥か向こうの席の神崎に目が滑った。
神崎もメンバーに教えている最中で、席を立って人のPCを見つめている。
やがて、にっと笑い掛けると、画面を指で指して説明を始める。
しかし、上手く伝わらなかったのか、説明しながら神崎が自分でキーボードを叩き始めた。
その子の背後に立ったまま、左手を椅子の背に、右手で器用にタイピングしている。小柄な女の子に覆い被さるようにして!
教えられている女の子は、心なしか頬を赤らめているように見える。
おい!神崎!自重しろ!!
くそっ!なんなんだ、もう。俺ばっかりやきもきして。
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