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9-約束(7)SIDE:神崎
ふふんふん、ふふんふん、ふふふふん♪
鼻唄を歌いながら、俺は自宅で荷物の整理をしている。
荷物ったって、服が数着と、小物類――ほとんどが猫――くらいだ。
あ、圧力鍋は持っていこうかな。それだけは槙野さんちになかったから。
カセットコンロも持っていこう。
槙野さんと二人で、お鍋食べるんだー。
『もー、槙野さん、椎茸も食べないとだめですよー』
『あ、あぁ……神崎が食べさせてくれるなら食べる』
『はいはい、ほら、口開けて?』
なんてらぶらぶしながら食べるの!!
前は『あーん』失敗したけど、きっと家なら人目もないし成功するはず!!
うふふふふ。
家具類は持ってかない。もともと中古を買ってきたから、もういい加減古くなってるし。
服と靴も、いい機会だからあんまり使ってないのは処分しちゃおう。
そうやって片付けていくと、持っていくものはだいぶコンパクトにまとまった。
これなら車で一回で運べるな。
◇ ◇ ◇
俺は片手に大きな猫のぬいぐるみを抱えて槙野さんちの玄関前に立った。
あ、そうそう、このぬいぐるみは『ゆき』って名前なんだよ。
由来は、幼馴染みのゆっきーに貰ったから。
ぬいぐるみに名前をつけたことをゆっきーに言ったら、『いい年して恥ずかしい真似しないでください』って冷たい目で見られたけど。
いい年になってから貰ったんだもん、しょうがないじゃん、ねぇ?
「おはようございまーす」
槙野さんに貰った鍵で玄関を開けて中に入る。
靴を脱いでると、リビングから槙野さんが出てきた。
「おはよう。荷物運び手伝おうか?」
「いえ、もう後は服と靴とかだけなんで、大丈夫です!」
ゆきを抱えて立ち上がると、槙野さんがぷっと吹き出した。
「おい、神崎、なんで真っ先にそのでかい猫持ってきたんだよ」
「貴重品です」
ゆきに槙野さんに向かって手を振らせると、部屋に入って鈴ちゃんのかぼちゃの横に座らせた。
すぐに鈴ちゃんが警戒しながらやって来て、すんすんと匂いを嗅ぎ始めた。
「鈴ちゃん、ゆきと仲良くしてやってねー」
ゆきは後ろ足を前に投げ出して座り、その間に前足を揃えている。
人間でいうなら、軽い前屈、みたいな姿勢だ。
匂いを嗅ぎ終わった鈴ちゃんは、無害と判断したのか、その後ろ足と前足の間にできた隙間に入り込んであくびをした。
両方とも同じ白黒の斑だから、鈴ちゃんは完全にゆきと同化してる。
ゆきに馴染んでくれたことにほっとしながら、残りの荷物を運ぶべく、駐車場との往復を開始した。
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