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9-約束(10)SIDE:神崎
翌日、定時後に会社を出た小牧ちゃん達と一緒に、会社近くの繁華街に足を向けた。
「今日は何ご飯?」
「スペイン料理だよー。スペインバルが新しくできたの」
「ほえー」
店頭のディスプレイもまだ新しい一軒のお店に四人で入った。
まだ時間が早いからか、お客はそんなにいない。
「あ、」
高橋くんが携帯を見て、小牧ちゃんに画面を見せている。
「そう?……ね、飲み物頼もうよ」
「俺ビール、あとチョリソな」
お腹を空かしてそうな早野さんが手を挙げて店員さんを呼ぶ。
「あとスペインオムレツとー、生ハムと、ピンチョスとー」
「あ、俺海老のアヒージョ食べたい」
「パエリアも先頼んじゃおっかな。時間かかりますよね」
それぞれが食べたいものを次々注文していく。店員さんは大忙しだ。
注文が終わると、高橋くんが、
「僕ちょっとお手洗い行ってきますね」
と言って席を外した。カウンターに行って何か喋ってる。トイレの場所でも聞いてるのかな?
「あー、腹減ったー」
早野さんがぼさぼさ頭をかき回す。
「そういえば最近早野さんお昼ご飯少なくないですか?」
「ダイエットさせられてんだよ。今日はめいいっぱい食うけどな」
「させられてる?あ、彼女?」
「あいにくだがそんなのいねぇよ。身内だよ。口うるさくてさぁ」
「でも早野さん、絶対痩せた方がいいですよ。あと筋肉」
小牧ちゃんが口を挟む。
「やだよ。痩せて筋肉つけたところで何も変わらねぇだろ。それだったらその時間でプログラム組んでた方が生産性があるだろ」
「つまんないなぁ。そんなんじゃいつまで経っても結婚できないですよ」
「する気ねぇよ」
早野さんがいーっと口を横に開いて見せた。
「お待たせしましたー」
ここで、店員さんがドリンクをトレーに乗せてやって来た。
ちょうど高橋くんも店の奥から戻ってくる。
ん?
「ちょっと、ドリンク多くない?八人分あるよ?俺ら四人でしょ?」
俺がそういうと、小牧ちゃんと高橋くんがにやにやした。
「いいんです、これで」
「あ、来た!西嶋さんこっちこっち!」
は?
小牧ちゃんが店の入り口に向かって手を振ってる。
入ってきたのは西嶋と、知らない男女二人と……槙野さん。
「今ドリンク来たとこですから!さ、どうぞどうぞ」
小牧ちゃんと高橋くんが場所を空ける。
え?何?どういうこと?なんで槙野さんがいるの?
槙野さんもびっくりした顔をしている。
「ほらほら、主役はこっち」
小牧ちゃんと知らない女の人が俺と槙野さんの背中を押して並ばせる。
訳が分からないまま言われるとおりに槙野さんの隣に移動した。
「さ、皆さんグラス持ってください」
高橋くんが音頭をとる。
何?何が始まるの?
小牧ちゃんが口を開いた。
「槙野さん、零ちゃん、同棲おめでとうございます!!!!」
「おめでとー」
「まさか槙野がな。おめでとう」
……え?
は、どゆこと?なんで同棲のことみんな知ってるの?
俺は隣の槙野さんを見たけど、槙野さんも驚いた顔をしてた。
「あっはっは、驚いた?やったね」
男の人がしてやったりみたいな顔でこっちを見た。
「えーと、自己紹介します。人事部の幹久譲です」
「営業の橘エリカですー。あ、私ら四人同期なのね」
幹久さんが俺に言う。
「神崎くん、こないだ人事項目変更届出したろ?住所の変更」
「あ」
まぬけな声が俺の口から洩れた。
「住所がさぁ、槙野透様方ってなってんだもん。びっくりするじゃん。で、西嶋に聞いたら、これはどうも付き合ってて同棲したっぽいって分かっちゃって」
槙野さんがようやく口を開いた。
「幹久、職権乱用だろ」
「俺とお前の仲じゃん。大目に見ろよ」
ビールジョッキを傾けながら、まあまあと宥めるような手つきでごまかされた。
「でも、なんで俺たちが付き合ってるって分かったんですか?」
これには西嶋が答えた。
「露骨なんだよ。隠す気あったのか?神崎が入院した時、槙野は毎日定時上がりで見舞いに行ってたろ。退院の日は有休取るし。神崎が槙野のこと好きなのは前に本人の口から聞いたしな」
「あー、まあ、な」
槙野さんが苦笑いする。
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