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【番外】舞踏会にはペット同伴で(3)

と、平和な会話を槙野さんと交わしたのが先週。 今は槙野さんを挟んでその西嶋さんと睨みあってる。 愛情込めて育てられたからといって、人格者に育つ訳じゃないらしい。 「たまには一緒に飯を食わないか、槙野?」 「今・日・も!俺と一緒に食べますよね、槙野さん?」 「毎日神崎と一緒か。じゃあたまには気分転換したいよな、槙野?」 「気分転換なんて必要ないですよね?毎日新鮮な気持ちで過ごしてますもんね、槙野さん?」 西嶋さんが一歩も退かない。もちろん俺だって退くわけにはいかない。 なんたって今日はパーティーだから! 何のパーティーだっけ?確か会社の創立何周年記念とか言ってた気がする。 俺としては御題目はなんでもいい。 せっかくいいホテルの大きなホールを貸し切りでやってるんだから、楽しく過ごしたい。 楽しく過ごすには、槙野さんは必要不可欠! ていうか槙野さんと一緒にご飯食べたい!! 毎日一緒だろとか、関係ない! 俺は!いつも!槙野さんと一緒に居たいの!! なんていう俺の気持ちは槙野さんに伝わらないみたいで、睨み合う俺たちの間でため息をついた。 「お前らよく飽きないな。俺は今日は幹久と居るよ。ちょっとは仲良くなれるようにお前らは二人で食べてこい」 「「いやだ」」 お、西嶋さんと初めて意見が一致した。 ちらりとお互い見交わしたけど、決して友好的じゃないよ! 「駄目だ。もう俺は決めたからな。二人がまともに一緒に居られるようになったら、三人で食べることにしよう」 そう言うと、槙野さんは人混みの中に消えてしまった。 「え、槙野さー―ぐぇっ」 槙野さんの後を追おうとしたら、西嶋さんにワイシャツの後ろ襟を掴んで引き止められて、潰れたカエルみたいな声が出た。 「ちょっと、何すんですか。殺す気ですか」 「殺す気があるなら槙野とくっつく前に殺ってる。……そうじゃなくて、槙野を追いかけても無駄だ。あいつ結構頑固だからな」 諦め顔の西嶋さんが、ため息混じりにそう言った。 「そんなの分かんないじゃないですか」 「それくらい分かる。お前と違って十年以上の付き合いなんだぞ」 そう。西嶋さんは、大学生の頃から槙野さんと付き合いがある。 俺は……まあ、まだ数ヶ月だけど。 「まあいいさ、槙野がああ言うならたまには子守りでもやってやるよ」 子守り?! 「西嶋さんって人の神経逆撫でするのお上手ですよね」 「褒めるな。照れる」 全然褒めてない! 「何食う?寿司か?ピザか?ローストビーフか?それともお子さまにはスイーツか?」 「全部」 俺がふてくされてそう答えると、西嶋さんはふっと笑った。 うわ、これはヤバいやつですよー、奥さん。いや奥さんて誰。 美形に笑いかけられるのって依存性のある麻薬みたいなものだということを初めて知った。 槙野さんの場合は、そもそも俺が槙野さんに一目惚れしちゃってるから、笑顔に見惚れても何ら問題はないけれど、西嶋さんの場合は違う。 惚れるどころか嫌ってるのに、俺を見る目が綻んだだけで、その口許が緩んだだけで、……正直に言うよ?笑わないでよね?……胸がどきどきする。 もっと俺を見て、もっと笑いかけてほしいとさえ思っちゃった。 駄目だ駄目だ、なにやってんだ。 俺が好きなのは、槙野さん。こんな腹黒に見惚れてちゃ駄目だ! うー……。 槙野さんといえばこの間、俺が休みの日に寝坊したら、先に起きて朝ごはん作ってくれたんだ。 ご飯作るのは俺の担当だから、起きて、時計見て、やばって思って慌ててリビングに行ったら、「おはよう、朝ごはんできてるぞ」ってにこって微笑んで言ってくれた。 朝ごはんは幸せの味がしたよ。えへ。 ……よし。槙野さん成分充填完了! これで西嶋さんなんかに揺らいだりはしな……あれ?西嶋さんどこ行った?

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