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【番外】舞踏会にはペット同伴で(4)

辺りの人混みを見回していると、後ろから笑い含みに声をかけられた。 「よぅ、迷子ちゃん。どうした、そんなにキョロキョロして。彼氏とはぐれたのか?」 俺に言ってんの?声の主のほうへ振り返る。 「よ、神崎」 あ! やせいの イケメン が とびだしてきた! え?誰だっけこの人。向こうは俺のこと知ってるみたいだけど、俺分かんない……! 頭の中で思いつく限りの知り合いの顔を思い浮かべるけど、やっぱり知らない、と思う。 短髪をワックスで立たせてつんつんしてる。 浅黒い肌に彫りの深い、良い意味で男らしく、皮肉っぽく歪めた口許に色気もある顔立ち。スリーピースのスーツがよく似合ってる。 「おい、まさか俺のこと分からねえとか言わねえよな!?」 そう言う声は、耳ざわりが良く低くてほろ苦い。酸味の少ないブラックコーヒーのような声だ。 「くそ、だから眉はいじるなって言ったんだ」 髭を整えた顎を苛立ったように人差し指で引っ掻いて、眉を片方つり上げる。 「あー、やっと琉夏(るか)兄見つけたー。もう、なんで逃げんの」 今度は知ってる人だ。小牧ちゃんが淡いコーラルピンクのワンピース姿でやってくる。 「なんでって、決まってんだろ。十分役目は果たしたろ。もう女どものおもちゃになるのは疲れたんだよ」 「まだまだ!パーティー終わるまでって約束でしょ?ねえ零ちゃん、すごい化けたと思わない?」 イケメン――琉夏兄とやらを指差して、小牧ちゃんが嬉しそうに笑う。 「う、うん……。すみません、俺にはどなたか分かんないんですけど」 途端に小牧ちゃんが笑い転げ、琉夏兄は渋い顔をした。 「だよね、分かんないよね!」 「俺の知ってる人なの?」 「馬鹿やろ、あたりめぇだ。早野だよ!」 え?早野さんといえば、ぼさぼさ頭に黒縁メガネで無精髭……お、お、お?! 「あ、ほんとだ!早野さんだ!」 頭の中で、目の前の見知らぬイケメンをぼさぼさ頭にしてメガネをかけさせると、早野さんになる! 「すごいでしょ?化けるでしょ?上のお兄ちゃん二人ともモデルやってんだから、琉夏兄もちゃんとすればかっこよくなるんだって」 小牧ちゃんは笑いながら、後半は早野さんに向けて言った。 「うっせ。こちとらただのPGなんだから、んなの必要ねぇよ」 ところで、小牧ちゃんと早野さんってそんなに仲良かったっけ? 普段会社ではあんまり一緒にいるところ見たことないけど……。 率直に小牧ちゃんに訊ねると、小牧ちゃんはにこりと笑った。 「いとこだよ。ちょっとさー、前の部署の友達には、同じ部にいとこがいるって知られちゃっててさ。まさかいつものもじゃ毛のまま見せるわけにいかないじゃん?だからちょっと気合いいれて変身させたの」 「もじゃ毛言うなよ。ちょっと伸びてただけじゃねぇか」 「見苦しいんだもん。あんなの絶対無理」 「見苦しいって、絵里お前……」 小牧ちゃんの言葉に、早野さんはちょっとショックを受けたみたい。 「で、でも!今の髪型すごく似合ってますよ!男らしくてかっこいいもん」 早野さんがなんだか気の毒だったので、及ばずながらフォローしてみる。 「ありがとな、神崎。気持ちだけでも嬉しいよ」 若干元気なく早野さんが俺の肩にぽんと手を置いた。 「あ!まりりん!久しぶりー!」 小牧ちゃんはまた知り合いを見つけたらしく、早野さんを引っ張って行っちゃった。 「早野さん頑張ってー」 俺は引きずられていく早野さんを、手を振って見送った。

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