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【番外】舞踏会にはペット同伴で(5)
「おい、神崎」
ぼんやり早野さんが消えていった後の人混みを眺めていたら、西嶋さんの声と共に背中を軽くつつかれて、何事かと俺は後ろを振り返った。
「飯、食うぞ」
見れば、テーブルの上にはきれいに盛り付けられた二枚のお皿があった。
ほら、とフォークを渡されて戸惑う。
「え、え?俺の?」
「他に誰がいるんだよ。神崎がぼけっとして来ないから、お前の分も取ってきてやったんだろうが」
「西嶋さんが!?」
あの西嶋さんが?
あの、サーバルームで胸倉掴んで脅してきた西嶋さんが?
しかも今もそんなに態度が軟化してるわけじゃないし。
「なんだよ、その信じられないものを見るような目は。そうだよ、神崎が全部食うとかぬかすから、この俺がわざわざよそって来たんだよ。……あ、皿両方とも内容違うから、食いたいやつ好きに摘まめよ」
なにこの微妙に気のきく感じ!
西嶋さんってほんとはこんなキャラなの?
「いらないなら別に無理して食わなくていいぞ」
俺が戸惑っていると、フォークを取り上げられそうになった。
やだやだ食べる。食べ物に罪はないもんね。
しっかり握りしめてフォークを死守した。
通りかかった給仕さんからドリンクを受け取り、お食事タイムにする。
「いただきます」
手を合わせて食べ始める。
ふんふん、あ、これはなかなか美味しい。
さすが、ちゃんとしたホテルは違うなぁ。
ただのポテサラがめっちゃ美味しい。
次はシュウマイだー。
「んっ、うまっ。西嶋さん、このシュウマイめっちゃ美味しいですよ」
「ん?これか?……ふん、悪くないな」
「おー、何か分かんないけどこの揚げ物も美味しい!」
「おい、俺にも食わせろ」
「はーい」
さくさくとフライを齧りながら、ぽつりと西嶋さんが呟いた。
「はぁ……槙野のやつ、こんなお子さまのどこがいいんだか」
む、失礼な。
「全部、らしいですよぉ?」
若干の嫌みを込めて言ってやると、射殺(いころ)されそうなギンギンに鋭い視線がとんできた。
うわ、腹黒オーラが目に見えそうだ。
「黙ってろこのミジンコが。踏み潰すぞ」
西嶋さんは一歩俺に近寄ると、周囲に聞こえないよう押し殺した声で言った。
犬からミジンコに降格かよ!
一言言い返してやろうと口を開いたその時。
「悪ぃ神崎、ちょっと匿ってくれ」
足早にやって来た誰かが、俺の腕を掴んで体の影に隠れた。
「え、え?」
戸惑った俺は体を捻って、誰が来たのか見ようとする。
「どアホ、動いたらバレんだろーが!じっとしてろ!」
怒られた。
なんだよもー。みんなして俺のこと、ミジンコだのどアホだの好き放題言って。
俺だって怒るときは怒るんだぞ。
「早野、今日はずいぶん雰囲気が違うな」
西嶋さんが目を瞠 って俺の影に視線を向けている。
あ、来たの早野さんだったのか。
「!俺が早野だって判ってくれたの、西嶋さんが初めてです!」
早野さんが俺の影から出て、がばっと西嶋さんの手を取る。
「ちょっと早野さん、出てきちゃって大丈夫なんですか?」
「ん、あー、大丈夫だ。絵里のやつ、俺探すの諦めて飯食いに行ったみたいだから」
人混みを透かすように見やって、早野さんはため息をついた。
「もう散々だっつーの。俺連れ回して何が楽しいんだか」
ため息ついでにきゅるると腹が鳴る。
「ああもう!飯もろくに食ってねーし!」
嘆く早野さんに西嶋さんが声をかけた。
「飯付き合おうか?俺といれば連れ回されることもないだろ」
早野さんは勢いよく顔をあげた。
「いいんですか?ぜひお願いします!」
そんなわけで、西嶋さんは早野さんを連れて再度食事を取りに行き、俺は一人ぽつんと取り残された。
あー。怒るタイミング逃したなー。
やっぱ慣れてないとなかなか難しいんだな。怒るのって。
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