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【番外】舞踏会にはペット同伴で(8)

上機嫌な西嶋さんとは対照的に、向かいの早野さんはこれ以上ないくらいのぶすくれた顔をしてた。 椅子に浅く座って背もたれに体を預けただらしない姿勢。 その服装はぱりっとした高価そうなスーツに変わってた。 眼鏡もかけてないし、髪形も整えられて、ふて腐れた態度以外はいかにも、『イケメンホスト』。 「え、なに、どうしたんですか早野さん。着替えたの?」 「着替え『させられた』んだよ。……なあおい、どういうつもりだよ西嶋さん」 西嶋さんに着替えさせられたってこと? 「なんで?……まあ、昨日のよりこっちのスーツの方が似合ってますけど」 「だろ?人間、自分に似合う服装をするのが一番なんだよ」 西嶋さんはあくまで機嫌よく、微笑むアイスブルーの瞳はきらきら輝いている。 「クソが、聞けよ神崎。完全に人権無視だぜ。トイレに行ったら服はがれて、スーツと一緒に個室にぶち込まれてさぁ。そのまま出てくわけにもいかねぇし、しょうがないからスーツ着るしかねぇじゃねぇか。どうやったのか、コンタクトまで持ってやがるし。あれか、小牧とグルか?」 「グルだなんて人聞き悪い言い方するなよ。知りたい情報があったから、彼女から教えてもらっただけだぜ。ああ、コンタクトはもう要らないって言うから貰ったけど」 「小牧のやつ裏切りやがって」 早野さんが天を仰ぐ。 「スーツもサイズピッタリだろ?彼女のおかげだよ。靴はさすがに昨日の今日じゃ新品は用意できなくて、俺ので申し訳ないけど。サイズ同じで助かったよ」 「なんでそこまでして早野さんを着替えさせたんですか?」 俺の素朴な疑問に、西嶋さんはにやりと笑った。爽やかさの裏に腹黒さが見え隠れする。 「ん?俺もひとつペットってのを飼ってみようかと思ってさ。な、琉夏」 途端に早野さんががばっと体を起こした。 「下の名前で呼ぶなっつったろうが!!」 しかし時すでに遅し。 源氏名めいた『琉夏』という名前は今の早野さんにぴったり過ぎた。 思わず俺も呟いた。 「琉夏さんだ……」 「神崎てめえもかっ!」 その後どうやって西嶋さんと早野さんが仲良くなれたかは、機会があったら報告するねっ。 取り急ぎ、西嶋さんの押しが強引なくらい強かったことと、早野さんが案外早く降参したことだけ報告しときます。

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