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【番外】思い出ショウタイム(8)

「ふふ、入れちゃった」 すぐにギリギリまで引き抜くと、また熱い体内にぶちこむ。 「あー、たまんない。槙野さんの中きつくて熱くてすっごく気持ちい」 思わず呟くと、槙野さんが、 「は、あ、ぁはっ」 と苦しそうに笑った。 ぐりぐり腰を押し付けながら、槙野さんに訊いてみた。 「なんで今笑ったの?」 「かん、ざき、が、やっと帰ってきた、なって、思って。嬉しくて」 頭を殴られたような衝撃が全身を駆け抜けた。 幸福感に包まれる一方で、胸は締め付けられるように苦しい。 俺がただ家に帰ってきただけで、喜んでくれる人がいるなんて。 そんな幸せがあるなんて。 そんなの、俺知らない。 そんなの、ずるい。 動くのを止めて、黙って俺はもう一度槙野さんを抱きしめた。 「ん、神崎、泣いてるのか?」 「泣いてないもん」 手の甲で乱暴に目元を拭う。 あーだめだ、止まんない。 全然止まんない。 ぱたぱたっとシーツの上に雫が落ちて、槙野さんにばれた。 「ほら神崎、泣いてるじゃないか」 俺はもうすっかり萎えちゃって、槙野さんの隣に座り込むと、天井を見上げた。 槙野さんも起き上がると、傍に座って毛布を二人の肩と膝に掛けた。 ぽろぽろ落ちる涙を槙野さんがティッシュで拭ってくれようとするんだけど、涙がこぼれるペースにティッシュが追い付かなくて、あっという間にぐずぐずになってた。 「ごめん、ごめんなさい、すぐ泣き止むから」 俺がそう言うと、槙野さんは俺の頭を抱き寄せて、頬に残った涙の痕を指で拭った。 「泣きたい時は泣いとけよ。でないと、俺みたいに『血も涙もない』とか言われるぞ」 「槙野さん、そんなこと言われてるの」 「昔、な」 ふ、と自嘲気味に笑った槙野さんは、毛布の中で俺に身を寄せた。 「寒くないか?大丈夫か?」 「だいじょぶ」 言った途端に涙がぽろぽろぽろっと転げ落ちる。 「ねえ、槙野さん、抱きしめて……ほしい、です」 「ん」 槙野さんはすぐに腕を伸ばして俺を包み込んでくれた。 槙野さんは、俺が欲しいものを何でも与えてくれる。 俺が存在すら知らなかった幸せも、全て。

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