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【番外】思い出ショウタイム(10)
ようやく涙が止まった。
「ありがと、槙野さん」
「落ち着いたか?」
「うん」
頷いて、槙野さんを抱き返す。
「ごめんなさい、変な時に泣き出しちゃって」
「え?……あぁ、忘れてたよ」
槙野さんはあくまで優しい笑顔で、俺の髪を撫でてくれた。
「風呂、入ろうか」
「うん。……あ」
頷きかけて俺は言葉を止めた。
「あの、槙野さん。一緒に、入り、たい、です。……だめ?」
槙野さんは少し驚いた顔をしたけど、すぐにまた微笑んだ。
「いいよ。一緒に入ろう」
ただ、槙野さんと離れたくなくて言っただけなんだけど、二人でお風呂に入るなんて初めてだ。
大胆なことを言っちゃった。どうしよ。
俺はどきどきしながら、さりげなくゴムとローションを隠し持って、槙野さんの後を追いかけた。
◇ ◇ ◇
槙野さんちのお風呂は広い。
初めて入った時は、二人でも入れるなぁって思って、でも俺は火傷の痕を見せたくなかったから、到底叶わない夢だと諦めてた。
まさか槙野さんと一緒にお風呂に入れる日が来るなんて。
俺は湯船につかりながら、体を洗っている槙野さんを頬杖ついて眺める。
「槙野さんて綺麗だなぁ……」
そうか?と槙野さんが苦笑した。
「なんでこんなに綺麗なんだろ……あ、脇毛ない!」
途端に槙野さんが吹き出した。
「うわ、あ、よく見たらムダ毛全然ないじゃん!え、剃ってるの?脱毛?」
「あんまり笑わすなよ……元から生えないんだよ。ひげも生えないし」
「そういえばそうかぁ……」
体を洗い終わった槙野さんが俺を見る。
「湯船入るから詰めろよ」
は?ちょっと意味がわかんないです。
「ここ空いてますよ」
俺は自分の両膝の間を示した。
「そんな確実に悪戯される所に入れるかよ」
「悪戯しません」
「本当か?」
「……たぶん」
槙野さんはちょっと笑って、仕方ないなと俺の願いを聞いてくれた。
華奢な体が俺の腕の中にすっぽり収まる。
「やったー!ツルスベ槙野さんだ!!」
頬を寄せて、背中から思いっきり抱きしめた。
あー、普段の槙野さんより更に抱き心地がいい気がする。
「ちょ、ちょっと、どこ触ってんだよ」
「胸です」
「悪戯しないって言っただろ」
「悪戯じゃないです。性的行為です」
「お、おぅ。堂々といったな」
逃げるように前屈みになって自分の胸を手で庇ってる姿は、たぶん本人が思ってる百倍エロくて千倍愛しい。
「ねー、手、どけてくださいよぅ」
「どけたら触るだろ」
「もちろん」
「じゃ、だめだ」
んもー、槙野さんてば。
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