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【番外】バッドモーニング・コール(1)
その日、俺はいつもより早く目を覚ました。
普段なら九時まで寝ているのに、七時過ぎにふと目が覚めた。
傍らで眠っている鈴が寝言でも言ったのかもしれない。
もしくは、虫の知らせというやつかもしれない。
とにかく、目が覚めて時計を見たら七時だった。
膝の辺りに鈴の温もりを感じる。
隣のベッドに視線をやると、主を待つ枕がぽつんと置いてあるのが目に入った。
神崎は昨日から泊りで仕事をしている。
もうそろそろ帰ってくる頃合いだと思うのだが……。
空のベッドはやはり寂しい。
ずいぶん長い間を鈴と二人きりで過ごしてきたが、神崎が来たとたん、二人きりが寂しくなった。
居たら居たでぎゃーぎゃーうるさいやつだが、居ないと家がやたらがらんと広く感じられる。
これから二度寝するには目が覚めすぎてしまったし、朝食でも作っておいてやるか……。
どうせまた、腹を空かして帰ってくるんだろうし。
鈴を起こさないようにそっとベッドを抜け出すと、顔を洗い、部屋着に着替えた。
朝食は何にしよう、オムレツかな、それだったら出来立ての方が嬉しいかな、なんてぼんやり考えていると、カウンターに置いていた携帯が震えだした。
神崎から電話だ。
「はい」
途端に泣き出しそうな神崎の声が堰を切ったように電話口から溢れてきた。
『どうしよ、どうしよう槙野さん』
「なんだ、どうした」
『すごくちっちゃい子猫見つけたんだけど、怪我してて血だらけで、痩せてて、ほとんど動かないの。どうしよどうしよ、死んじゃうよ』
「神崎、まず落ち着け」
『う、うん』
震える喉で深呼吸するのが電話越しに聞こえた。
「大丈夫か?今どこにいる?」
『家まであと少しのとこ』
「一回駅に戻れ。西口に出て正面の道を行くと、右側に青いビルがあるから、三階の早乙女ペットクリニックに行け」
『右側?分かった』
「まだ開いてないと思うが、先生には電話しておくから、ちょっと待ってろ」
『うん。ありがと。行ってみるね』
「気を付けろよ」
通話を切ると、『早乙女まゆみ』の名前を探して電話をかける。
『はぁい。鈴ちゃん、どうかしたのぉ?』
ゆっくりした口調の女性が電話口に出た。
「時間外に申し訳ありません。鈴はお陰さまで元気なんですが、知り合いが怪我した子猫を連れてまして。今そちらに向かわせたところなんです」
『あらあら大変。すぐいらっしゃるのかしら?』
「十分くらいで伺うと思います。神崎って背の高い男です」
『わかったわぁ』
「俺もこれからそちらに伺いますので。すみませんがよろしくお願いします」
『はぁい』
電話を切った俺は、急いで着替えると財布を持って外に出た。
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