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【番外】バッドモーニング・コール(2)

「うぅん。重度の栄養失調と脱水、外傷は左目と脇腹ねぇ」 タオルにくるまれた子猫は弱々しく腹部を上下させて、かろうじて息をしている、ように見えた。 「あの、それで、この子は助かりますか?」 神崎が恐る恐る聞いた。目尻に涙が浮かんでいる。 「脇腹はちゃんと縫合したから大丈夫よぉ。でもね、左目は義眼を入れた方が良いわねぇ」 「そう、ですか……」 神崎は唇を噛んでうつむいた。 灰色のその猫はずいぶん小さく、毛皮の上からでも骨が浮いて見えそうなくらいに痩せていた。 確かに、左半身に血がこびりついて毛皮がごわごわになっている。 神崎は頭を下げた。 「お願いします、先生。助けてください」 「もちろんいいけどぉ……元気になったらどうするの?」 小首を傾げて早乙女先生は訊いた。 「俺が……」 神崎が言いかけて、ちらりと俺を見た。頷いてやる。 「俺が飼います」 「そう!なら安心ね。鈴ちゃんにも気を遣ってあげてねぇ?」 「はい」 ひとまずは入院が必要だということで、子猫を預けて俺たちはクリニックを後にした。 帰る途中、駅近くのマンションのゴミ捨て場で神崎が立ち止まった。 「ここにさ、あの子いたんだ。ゴミ袋が積んである隙間に。俺が通りかかったらカラスがたくさんいて、何かつついてるから、ゴミ漁りかなと思って、よく見ないで通りすぎちゃって」 神崎はうつむく。 「そしたらちっちゃい猫の鳴き声がしたから、振り向いたら、あの子がゴミ袋の隙間から引っ張り出されてた。それで俺ってばやっとあの子に気がついて、カラスを追い払って助け出したんだ」 神崎はうつむいたまま顔をあげない。 俺は神崎の腕を軽く叩いた。 「結果、良かったじゃないか。命に関わる怪我はしないですんだんだから。神崎のおかげだぞ?」 「でも、最初に見た時に俺が気づいてれば、たぶん左目も助かってた」 「考えても無駄だ、神崎」 俺は手を伸ばして、うつむいた神崎の顔を上げさせた。 「あれが、神崎にできた最善の行動だ。自分を責めるな」 「でも、」 「でもでも、うるさい。それよりも、うちが四人家族になるんだぞ?トイレとかエサとか水飲みとか、ベッドとか考えることは他にいっぱいあるだろ」 神崎の手を引いて家に向かう。 「名前、考えてやれよ。神崎が飼うんだからな」 「……うん。そうだね」 神崎が俺の手を握り返した。少しは声に力が戻ったようだった。

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