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【番外】バッドモーニング・コール(3)

子猫の退院の日。 午後三時に予約を入れたというのに、神崎は朝からそわそわしっぱなしだった。 床に座って、まだベッドにいる俺の脇腹に顔を埋めて、うーうー唸っている。 「おい、神崎、何やってんだ」 「き、緊張しちゃって」 「はは、なんでだよ」 「結婚式の朝ってこんな気分なのかなぁ」 緊張のあまり発想がぶっとんでいる。 「ほーう、神崎はあの子と結婚するのか」 「だって、みたいなもんじゃん。一緒に住んで、俺がえさ代稼いで、幸せにしてあげるんだよ?」 「じゃあ、俺とは別れてもらわないとな」 「ちょ、ちょっと待って!例えだから!例え!」 悪い冗談やめてよー、と神崎が唇を尖らせる。 思わず笑ってその尖った唇に指を滑らせて、神崎をベッドの上に引っ張りあげた。 「名前は?決まったのか?花婿さん」 シャツがまくれ上がってあらわになった神崎のへそに口づけを落とす。 神崎に馬乗りになって、顎の下を指先でくすぐりながら聞いた。 「決めた。『あん』漢字は杏」 「いい名前じゃないか」 「でしょ?」 嬉しそうに神崎が笑う。俺の手をとって、指先にキスをする。 「早乙女先生、後のお楽しみって言ってまだ会わせてくれないんだよね。少しは太ったかなぁ?」 「かなり痩せてたもんな。きっと元気になってるよ」 「だよねぇ。ふふ」 にこにこしていた神崎が、急に真面目な顔になって俺の手を掴んだ。 「そういえばさ」 「なんだ?」 「槙野さん、早乙女先生と仲良いよね。時間外でも診てもらえるなんて。ぼんきゅっぼんの美人先生とどういう関係?」 これは嫉妬か?神崎にしては珍しい、ちょっと怒ったような顔をしている。 からかってやりたくなるが、今日のところは止めておこう。 「ここに引っ越してきたばかりの頃、鈴が体調を崩してな。休みの日にも発作を起こしてたから、連絡先を教えてくれたんだ」 「ふぅん?槙野さん狙いじゃないのぉ?」 嫉妬している。分かりやすく嫉妬している。 ちょっと面白いが、今日のところは誤解を解いておこうか。 「これは内緒だが、先生は同性愛者だ」 「え!」 「受付の子とずっと付き合ってるみたいだ。たまに二人で手を繋いで買い物してるのを見かけるからな」 「そーなのかー」 目を丸くする神崎。屈みこんで額にキスしてやった。 「だから嫉妬しなくて大丈夫だ」 「えっ!う、別に嫉妬なんか」 「してただろ?」 「……はい。だって槙野さんかっこいいんだもん。他の人に狙われるんじゃないかって心配になるよぉ」 強く腕を引かれたと思うと、いつの間にか神崎に組み敷かれていた。 こつん、と額を合わせて神崎が呟く。 「槙野さんは俺だけのご主人様じゃなきゃ、やだ」

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